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表紙

火の雫  8
 冷房の効いた店から出ると、外の熱気で殴られたようにくらくらした。
「今度はどこ行く?」
 真路が訊いた。 なんで私に合わせるんだろう、と、絵津は不思議になった。
「真路……さんは、どっか行きたい?」
「真路さんて」
 絶句して、真路は背中に長い腕を回して掻いた。
「まじゾクッと来た。 シ・ン・ジ。
 俺はどこでもいいよ。 どうせ暇だから」
「高校楽しい?」
 なんとなく歩き出しながら、絵津は尋ねてみた。 他に話題を思いつかないせいもあったが、未知の『高等学校』というものに興味を引かれた。
 真路はあっさり首を振った。
「別に」
「部活、入った?」
「ああ。 バスケ部だけど、あんま強くない」
「進学校だから?」
「それもあるけど、顧問の先生が大したことない。 元プロとかにさ、教わりたい。 田臥選手かっけー。 憧れるー」
 意外に熱いんだ。 新発見をした気持ちで、絵津は中学時代より確実に十五センチは伸びた真路を見上げた。


 もう手は繋がなかったが、そのまま肩を並べて歩いた。 午後の陽射しは強烈で、足元に墨で描いたような影ができた。
 思い出したように、真路が訊いた。
「俺が進学校行ってるなんて、なんで知ってる?」
 絵津はちょっとどぎまぎした。
「みんな知ってるよ。 有名人だもん」
「俺が?」
 真路は、本当に驚いたようで、目を丸くした。
「そうなのか?」
「うん、モテ度九十八とか言われてたよ」
「九十八」
 眉をしかめて、真路は考え込んだ。
「うーん、引かれた二は何だ?」
「やだ。 百でないと駄目?」
 絵津は笑ってしまった。 その顔を、真路が視線を集中して眺めた。
「お、笑ったな」
「笑ったよ。 だって百パーセントの人間なんて……」
「そっちじゃねーよ。 おまえ、めったに笑わないから」
 はっとして、絵津の笑顔は引っ込んだ。







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