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やなこった。
母の口癖を心の中で呟いて、絵津は真路に背を向け、さっさと歩き出した。
気がつくと、横に真路が追いついてきていた。 ポケットに片手を突っ込んで、もう片手でキーチェーンを所在なげに回していた。
「なあ」
絵津は足を速めた。 でも、振り切れる相手じゃない。 すぐに並ばれた上、腕を掴まれた。
唐突に、絵津は立ち止まった。 おかげで、真路は前にのめりかけて、急いで体勢を立て直した。
「あのな、まじで付き合わないか?」
ドキッとしたのを隠そうとして、前髪を揺らして顔をそむけると、絵津は言った。
「年が離れすぎ」
取った腕を離さずに、真路はすぐ言い返した。
「たった三年だろ。 おまえ背が伸びたし、中三ぐらいに見える。 なあ、うちへ来いよ。 街中ひとりでふらふらしてるとヤバイよ」
男の子の家へ行ったほうがよほどヤバイんじゃないか?
頭が混乱してきて、絵津はまたやみくもに歩き出した。 真路は前に回りこんで、その足を止めさせた。
「逃げんなよ」
「逃げてないよ」
仕方なく口の端で答えると、真路はにんまりして、また横に並んだ。
「おし。 歩き回るんなら、付き合うぜ」
頼んでない。 でも実をいうと、誰かが横にいるのは嬉しかった。 特に、一緒にいたら自慢になるような男の子なら。
「ただ時間つぶしてるだけだから」
「それ、食っちまえよ」
不意に指摘されて手を見ると、三段アイスがドロッと溶けて、絵の具を塗り重ねたようになっていた。
相変わらず、真路はさりげなく押しが強い。 半ば強制的に手を繋がされて、絵津は町の通りを歩き、促されるままファーストフード店に入った。
男子とバーガーをかじり、シェイクを飲むなんて、初めての経験だった。 女の子してる、と、なんとなく自分が嬉しくなったが、後が続かないのもよく承知していた。
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