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マキ子は努めて笑顔を作って、大嶺夫人を励ますように言った。
「ほんとに今の男の子は何を考えているかわかりにくいですね。 坊っちゃんはおいくつになられました?」
江都子〔えつこ〕夫人が答える前に、父親の大嶺が先取りした。
「今日で二十歳なんですよ。 その祝いに来ていたわけです」
マキ子の意図を悟ったらしく、暁斗もスッと立ち上がり、さりげなく妻の横に並んだ。
頭を上げた江都子夫人の顔が輝いた。
「まあ、ご夫婦お揃いで」
「こんにちは。 その節はお世話になりました」
「お坐りください、どうぞどうぞ」
大嶺氏はウェイターに合図して、マキ子たちの料理を自分の卓に運ばせた。
十分ほど話し込んで、マキ子は巧みに江都子夫人を誘導し、義理の息子と別居したいと言わせてしまった。
それから、心配そうに口ごもった。
「でも、遠くへやるのはご心配でしょう? 目の届くところでないと、ねえ?」
暁斗は澄まして相槌を打った。
「立派な大嶺ビルがあちこちにありますよね」
「そうだ!」
大嶺社長の目が光った。
「新築の大嶺パークハイツ、あそこの空き部屋に入れましょう。 下が事務所とレストランだから、出入りを見張れる」
「いいお考えですわ。 かわいい子には旅をさせろ、ですね」
体よく追い出す母親と過保護な父親、二人の思惑が一致して、話はうまくまとまった。
レクサスを運転しての帰り道、暁斗は隣りのマキ子に尋ねた。
「どうして大嶺の宰くんを救い出してやろうと思った?」
後ろへ流れていく通行人に目を当てながら、マキ子は考え深い口調で答えた。
「宰くんは、うちの卓斗よりだいぶ年上だけど、暗い目は同じだった。 命が危なかった子と同じ目つきをしているなんて……。
手術成功で、卓斗は明るさが戻ったわ。 だからあの子にも、できれば伸び伸びした毎日を取り戻してあげたいの」
「伸び伸びしすぎて羽目外すんじゃないか? 一人暮らしなんかさせたらさ」
そう言って、暁斗はクスッと笑った。
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