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博史は顔を強ばらせ、肩をそびやかした。
「三対一ですか。 かないっこないな。
それにしても、和麿小父様には失望しました。 恋愛経験豊富な男のほうが妻を幸せにできるっていうフランスの諺をご存じないんですか?」
「ここはフランスじゃない。 日本だ」
びしっと言い返すと、和麿は、曲の終わったプレーヤーを止めた。
博史は、怒りの溜まった目つきで、三人をぐるっと見渡した後、荒々しく部屋を出て、ドアを閉めた。 ガチャンという大きな音が木魂〔こだま〕した。
とたんに和麿が、傍の椅子に腰を落として、ハンカチで額の汗をぬぐった。
「疲れた! わたしももう若くないんだから、心臓にこたえるよ」
「ごめんなさい、お父様」
慌ててまき子は傍に寄り添った。
「凍頂烏龍茶でも持ってきましょうか?」
「いや、ブランデーがいいな」
そう言って、和麿は少年のようにニカッと笑った。
「ともかく、これで一件落着だ。 博史くんを無理して教授会に推薦する必要もなくなったし、ほっとした」
驚いて、目で問いかけたまき子に、和麿は淡々と答えた。
「彼はね、女子学生にはともかく、男子と同僚には受けが悪くてね。 学内の評判はあまりよくないんだ」
それから、ぽんと膝を叩いて立ち上がり、暁斗を見た。
「ただし、君をすぐ合格にするとは言っていないよ」
「はい」
暁斗はおとなしく答えた。 だが、その瞳はきらきらと燃えて、内心の喜びをはっきりと表していた。
「さてと、ワインセラーでオタールのエクストラなど探してくるかな」
ややわざとらしく語尾を延ばして、和麿が部屋を出ていった後、まき子は、さっと暁斗に向き直った。
これまで心を押さえつけていた重石が、嘘のように吹き飛んだ。 二人は見つめあい、微笑みあい、ほぼ同時に両腕を差し伸べあった。
そして、どちらからともなく駆け寄って、夢中で抱きあった。
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