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二時を少し回った頃に、博史が到着した。 クラウンで玄関先までまっすぐ乗りつけ、大きな音を立ててドアを開け閉めすると、ずかずか玄関ホールに上がってきた。
家政婦の三島が慌てて迎えに出た。
「いらっしゃいませ。 皆様は小鳥の間でお待ちでございます」
「皆様か!」
きりきりと眉をしかめて、博史は吐き捨てた。
「和麿小父様はどんなご様子だ?」
三島は困って、首をかしげた。
「さあ、いつもとお変わりないようですが」
「あのチンピラ・バイオリニストに腹を立てているようかい?」
「いえ、別に」
「考えられないな。 金目当てなのが見えすいてるのに」
三島の目が、ちらっと横に動いた。 しかし、何も口には出さず、ただ丁重に手を差し出して道を示した。
「こちらです」
「わかってるよ、小鳥の間がどこかぐらい」
ぞんざいに言うと、博史は大股で廊下を進んでいった。
いきなり扉を開いた博史に、室内の三人が一斉に視線を集めた。
棚でレコードを選んでいた和麿が、顔だけ向けて言った。
「ノックをしたらどうかね、博史くん」
「すみません」
口先だけで詫びたものの、博史の目は、ソファーに並んで坐って仲よくきんつばを食べている恋人同士に釘付けとなった。
慌てずに竹のフォークを蒔絵の皿に置くと、まき子が穏やかに勧めた。
「こちらへお坐りになって。 あなたの分も用意させてありましてよ」
あなたの分も! まるでおまけのような扱いに、博史の顔がみるみる赤らんだ。
「きんつばは嫌いだ! 砂糖の衣がぼろぼろ落ちてきて、食べにくい」
「これは銀座のイカリ堂のですから、そんなことはないわ。 とてもしっとりとおいしく出来ていますわよ」
「いますわよじゃない!」
遂に博史は爆発した。 妙に和気あいあいムードの室内に、我慢ならなくなった。
「こっちへ来なさい! そんな下層階級から離れるんだ!」
きっとなって、暁斗が顔をもたげた。
だが、彼が言い返すより先に、まき子が毅然と答えた。
「家柄自慢は、もう結構です!」
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