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博史が黙っている間に、まき子は素早く言葉を継いだ。
「あいにくだけれど、今日のお昼は先約があるの」
苛立った風に、博史は電話の向こうで溜め息をついた。
「なあ君、ちょっと気を悪くしたからって、ない約束まででっちあげないでくれよ。 僕だってわざわざ休講にして出てきたわけだし」
「そういうことは前もって言っていただかないと。 先約は本当で、外すわけにはいかないの」
「じゃ、昼休みが終わった頃に迎えに行くよ。 それならいいだろう?」
敵もなかなかしぶとかった。 今度はまき子が溜め息をつきたくなったが我慢して、穏やかに答えた。
「では『こでまり』で一時半に」
「こでまりだね? わかった」
ほっとした様子で、博史はようやく電話を切った。
「一時半って? 私用ならちゃんと許可取っていってよ」
石山が尋ねた。 まき子は渋い笑顔を返して、やむなく説明した。
「今日は早退させてもらうわ」
「えー」
石山の口がへの字になった。
「そういうのこそ先に言ってよ。 在庫整理の書類がこんなに……」
「石山くん」
課長がデスクから立ち上がって呼びかけた。
「これコピー頼む」
「はーい」
ドサドサと足音を立てて、石山は回れ右した。
頼んだ通り、暁斗はブロックの角を曲がったところで待っていた。 今日は短めのGジャンに白いTシャツだ。 頭に上げたサングラスがさりげなく決まっていた。
若いなあ――まき子はふと、気後れを感じた。 ごく普通の肩パット入りスーツと四角いバッグで装った自分は、この若者と並ぶとどういう関係に見えるだろう。
姉? それとも、ヤングマン好きのハイミス?
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