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博史とまき子は、白の間と呼ばれている第二応接室に入って、半月ほど前に博史が写してきたという東欧の風景を、テレビでスライドショーにして見た。
「これがワルシャワの凱旋門。 こっちがブランデンブルクのだよ。 新婚旅行はどっちへ行きたい?」
「どっちもあまり」
まき子は海外旅行が苦手だった。 外国で料理を口にすると、なぜか食あたりしてしまうのだ。 日本にいれば『痩せの大食い』と友達にからかわれるほどよく食べるのだが。
すると、博史は面白くなさそうに、ドサッとソファーに寄りかかった。
「ちょっとデリカシーがないなあ。 僕がわざわざ写真をこんなに撮ってきたのは、君に選んでもらうためなんだよ」
「国内旅行にしません? まだ訪れていない名所がたくさんあるし」
「国内? ゼミの学生に冷やかされそうだな。 近くで間に合わせるなんて貧乏くさいって」
間に合わせるというより、そちらのほうが望ましいのだが。 まき子はなんだか疲れてきた。 前はもっと、二人で話して楽しかったはずだが、子供時代の思い出は既にかすんで、なかなか脳裏に浮かんでこなかった。
博史といったん食堂に入ってから、料理の出来を見てくると言って、まき子は一人で抜け出した。
行き先は、地下室だった。 明かり取りの窓が並んだ階段を下りてから廊下を進んでいくと、部屋の前に仁王立ちしている粕谷が視野に入ってきた。
まき子は急ぎ足で近づいた。
「ここで何をやっているの?」
銅像のように表情を変えず、粕谷はむっつりした調子で答えた。
「見張りです」
まき子は辟易した。
「だから言ったでしょう? 練習に来ているだけで、持ち出しなんて……」
「ちがいます。 蛯原さまが田中さんの気持ちを乱しに来ないよう、ガードしておるのです」
ぎょっとなって、まき子はがっちりした粕谷の顔を見返した。
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