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地下室には、庭から直接降りることができる。 食事の後、まき子は粕谷を伴って、その地下室への入口を暁斗に教えに行った。
「これが外からの鍵。 そしてこちらが内鍵。 中にバイオリンを置いておきますから、帰るときは必ず内鍵もかけてね」
まき子がキーチェーンから二つの鍵を外して渡すのを、粕谷は面白くなさそうにじっと目で追った。
暁斗本人は、淡々と受け取った。
「ありがとう。 明日から譜面持ってきて、練習させてもらう」
「楽譜も大抵のものは揃えてあるわ。 使ってもらってもいいわよ」
「いや、俺なりの解釈がいっぱい書き込んであるから、自分のピースじゃないと」
熱心でひたむきなのだ。 少なくともバイオリンに関しては。 目的にのめりこんでいくその潔さを、まき子は清々しいと思った。
「じゃ俺、帰る」
あっけなくスタスタ歩き出した暁斗の袖を、急いで粕谷が掴んだ。
「それは困ります。 着替えてください」
「あ、そうだ」
開けた希望に頭が占領されていて、暁斗はディナージャケットのまま屋敷を後にしようとしていた。
もとの普段着に戻って出てきた暁斗を、まき子は玄関で見送った。 もちろん横には粕谷が並んでいた。
「明日は週末だけれど、遠慮は無用よ。 たっぷり練習していってね」
「そうする」
「では、粕谷にお宅まで送らせるわ」
「いいって。 電車で帰るよ」
短く手を上げて、暁斗はすぐ身をひるがえし、軽やかな足取りで正門へ歩いていった。 そのすらっとした後ろ姿を見送りながら、粕谷が呟いた。
「どこの馬の骨かわからぬ者に、あのような高価な品を自由にさせていいものでしょうか?」
「田中さんは馬の骨ではなくて一流の演奏家。 そして誰よりも楽器の値打ちを知っている人よ。 バイオリンは弾かなくてはどんどん質が落ちてしまうもの。 お父様はきっと、大事にしてくれる弾き手が見つかってほっとしていらっしゃると思うわ」
「持ち逃げしないよう、見張りを置いておくことにします」
粕谷はどこまでも、暁斗に敵愾心を燃やしていた。
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