表紙

羽衣の夢   200 酔って暴露


 三津子とその『高林さん』は、親しくなるまで四年もかかった割に、付き合ったとたんに意気投合したという。 クリスマスに初デートで、後は毎日のように夕食を共にし、年末の三十日に求婚されて、二つ返事で受け入れた。
「昨日お母さんに話したら、腰抜かされた」
 横で聞くともなく耳に入れていた美栄が、思わず噴き出した。
「三津ちゃん、相変わらず人騒がせね」
「えー、私って人騒がせ?」
「お兄ちゃんの結婚式で飲みすぎて、吐いちゃったんだって?」
「ああ、もう! 一年も前のことじゃない」
 三津子はふくれて、お多福のような顔になった。
 それから八つ当たりぎみに、登志子をぐんぐん押して、みんなが集っている和室へ入らせた。 すぐ大きな歓声と拍手が起こり、登志子は赤くなって敷居の前で立ち止まった。
 すぐ奥から祥一郎が出てくると、庇うように登志子の斜め前に立って、客たちに挨拶した。
「ありがとうございます。 これから大変でしょうが、二人で力を合わせてやっていきます」
「もうじき三人だよ!」
 陽気な野次が飛び、また拍手が沸いた。 若い夫婦は頭を下げて祝福に応え、賑やかな祝宴に加わった。


 居心地のいい中倉家から、客はなかなか帰らず、外が薄暗くなってようやく、ぼつぼつとお開きになった。
 まだ成人式をすませていないのに、人なつっこい結二は客たちと楽しく話しているうちに、いつの間にか差しつ差されつになってしまい、四時には相当お神酒〔みき〕が回っていた。
 大将たちが客を送り出している間に、登志子が後片付けにかかっていたとき、座卓の端に隠れるようにしてゴロ寝していた結二に、あやうくつまずくところだった。
「結ちゃん、起きて」
 登志子が膝をついて揺り起こそうとすると、結二は寝返りを打って、瞼をこじ開けた。 目がとろんとなっている。 登志子は困って首を振った。
「飲みすぎ?」
「いい気持ち」
「明日は気分悪くなるわよ〜」
「脅しっこなし」
 肘枕で、結二はにまっと登志子に笑いかけた。
「兄ちゃんとうまく行ってるんだね?」
「もちろん」
「最初っから?」
 結二が何をほのめかしているか悟って、登志子はペシッと彼の腰を叩いた。
「そんなことに興味持たないの」
「だってオレ、知ってるんだ」
「はいはい、もてるっていうのは私も知ってるわ」
「いやそういう意味じゃなく、兄貴が心配してたってことをさ」
「何を?」
 登志子はうっかり結二の誘導に乗って、聞き返してしまった。
 結二は眉を吊り上げ、酔っていなければ多分永久に黙っていたことを、ぽろっと口にした。
「初めてのときに男はどう振舞うべきか。 親父は、なるようになるって言って、若い頃の自慢話するだけでさ、おふくろにぶたれて。
 だから兄貴、決死の覚悟でピンク映画見に行ったんだぜ」
 登志子の目が点になった。
「あ……そうだったの?」
「そう。 できるだけちゃんとしたの選んで、それでも帽子にマスクで空き巣狙いみたいにして」
「へえ」
 考えているうちに、登志子は心もとない笑顔になった。 やがて嬉しさがこみあげてきた。 祥一ちゃんも初めてだったんだ。 私と同じに。
「まじめねぇ、祥一ちゃんは」
「今ごろ気づいた?」
 ケラケラ笑ったかと思ったら、次の瞬間結二は寝落ちしていた。







表紙 目次前頁次頁
背景:kigen

Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送