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羽衣の夢
198 二人きりの
式と旅行で帰路は疲れるだろうからと、吉彦と晴子から飛行機の予約がプレゼントされていた。
だから、帰りは空路でひとっ飛びだった。 三十分遅れで到着した夜の羽田には、意外にも弘樹と、祥一郎の弟の結二の姿があった。
荷物を持って出てきた新婚の二人は、弟達を見つけてびっくりした。
「お帰り〜」
「日焼けしたね〜、秋なのに」
手を振りながら声をかけられて、祥一郎は目まいしそうな顔になった。
「ただいま。 なんだ、来てたの?」
「ご挨拶だなぁ、土産が一杯だろうから、荷物持ちしてやろうと思ったのにさ」
祥一郎と結二が陽気に言い合いしている間、登志子はひょろっと祥一郎に肩を並べるほど大きくなった弟に笑いかけた。
「弘ちゃんわざわざ来てくれたの? ありがと」
「結二さんに誘われて。 さっきミルクコーヒーご馳走になった」
「そう、よかったね。 うちの人たち、みんな元気?」
「うん、元気すぎるほど」
披露宴のときに加寿が何度か咳をしていたのが、登志子の心に引っかかっていた。 顔色はよかったので、ひどい風邪を引いたとは思えなかったが、それでも旅行中に公衆電話を見るたびに、家へかけたくなった。 気の回しすぎだと笑われると思って、できなかったので、その通り杞憂〔きゆう〕だとわかって嬉しかった。
大型タクシーに乗って、一行は新婚夫妻の新居に向かった。 結二は兄の引越しの手伝いに何度か来たことがあったが、弘樹は初めてで、アパートの玄関をくぐるところから、あけっぴろげな好奇心で見回していた。
「明るくて綺麗だね。 みっちゃん(田島路香:弘樹の彼女)の兄さんのアパートよりおしゃれだ」
「建てて間もないから、今風なんだよ」
結二が兄の代わりに説明しながら、大きなバッグを持って階段を上がった。
祥一郎が部屋の鍵を開けたところで、弘樹が不意に思い出した。
「そうだ! お母さんとお祖母ちゃんから預かってた」
「何を?」
「晩御飯。 戻ってすぐ夕飯つくるの大変だろうからって」
そう言って、ずっと下げていた紙袋を登志子に渡した。 結構ずしりと重かった。
中に入っていたのは、タッパに詰めた深見家自慢のビーフシチューと、ゴマのかかったおにぎり多数だった。 その上、魔法瓶にスープまで入れられていた。
そのご馳走を見て、若者二人は居間に椅子を引いて座り込んでしまった。
「やれやれ、リビング・セットの椅子は二脚にしときゃよかったよ」
「いいじゃない? 四人分じゅうぶんありそうよ」
「食べさせてくれたら、すぐ帰るから」
結二はいそいそと、シチューの温めに手を貸した。
八時前、弟たちが土産まで貰い、ご機嫌で帰っていった後、若夫婦は手分けして荷物をほどいた。
テーブルに土産物を並べて整理していると、電車の音がごとんごとんと響いてきた。 風の向きで大きく聞こえるらしい。
ふと手を止めて、登志子が祥一郎を見上げた。
「静かね」
立って包みを並べていた祥一郎が、ゆっくり椅子に腰を降ろして、テーブルに肘をついた。
「そうだな。 なんか不思議な気がする。 どっちも実家が賑やかだからかな」
申し合わせたように二人の手が伸び、テーブルの上で握り合った。
「片付けは明日にしましょ。 お風呂わかすわ」
「じゃ、布団敷いとく」
「お願いね」
だが、同時に立ち上がった後、どちらもすぐには言ったことをしようとせず、しばらく抱き合っていた。 登志子の髪に頬を押しあてて、祥一郎が囁いた。
「ずっと助け合っていこう。 これからは二人で」
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