表紙

羽衣の夢   185 参加したい


 鶴と扇をあしらった見事な反物〔たんもの〕を入手した後、晴子は気合を入れて縫いに取りかかった。
 娘の奮闘を見て、加寿もやる気が湧き、紬〔つむぎ〕の生地を買ってきて、五枚揃いの座布団を作って贈ると張り切った。
 登志子は感謝を込めて、できる限り手伝った。
「いいのよ〜、登志ちゃんへの贈り物なんだから、本人が参加しなくても」
「したいの。 縫うのはとてもかなわないから、せめて裁つのは手伝わせて。 押さえる人がいたほうが楽でしょう?」
 そう言って、登志子は裁断だけでなく、鋏やヘラを渡したり、針にすばやく糸通しをしたりして、同じ部屋でせっせと縫い物をしている母と祖母の傍にいた。


 弟たちは、なんとなくこそこそしていた。 気がつくと、二人、三人と集まって内緒話をしている。 どうやら特別な贈り物をしようとして、秘密の計画を立てているらしかった。
 その点、父は開けっぴろげだった。
「式の費用は折半〔せっぱん〕することになったから、新婚旅行はうちが出させてもらうようにしたよ。 祥一郎くんは不満そうだったが、彼の貯金をすっからかんにしても、いいことはないだろう?」
 登志子はどう答えたらいいかわからず、まごまごした。
「ありがとう、お父さん。 でも私一人のために、うちの預金がガタンと減るのも困る。 旅行は無理に行かなくても」
「おいおい」
 吉彦は真面目な顔になって、首を振った。
「お父さんとお母さんは、戦争中でも頑張って行ったよ。 式からいきなり、せちがらい現実に戻らなくていいんだ。 間に一つ、楽しい時間があったほうが」
「お父さんたちは熱海に行ったのよね?」
 思い出して、登志子は微笑んだ。
「私達もそうしようかな。 祥一ちゃんに訊いてみよう」
「近すぎる。 昔とちがって列車が速いし、飛行機もあるんだから」
 不意に晴子が茶の間を覗き、陽気な声で口を挟んだ。
「なんならお母さんのへそくり出すわよ〜。 心配しないで、登志ちゃん」


 こうして準備は着々と整っていった。
 決まらないのは新婚旅行の日程だけで、登志子はそれを略して、嘉子に詳しく手紙を書いた。
 すると、二日後に届いた返事で、嘉子の勘のよさが証明された。
 手紙では、どうしても大掛かりになってしまう結婚式を褒めたたえていた。 呼んでほしい知り合いがそんなに沢山いるのは、二人に人脈という財産があることだ。 つながりを大事にする素敵なお婿さんでよかった、と書いた後で、嘉子は慎重に提案していた。
『……でも、それで新婚旅行の予定が消えたなら、寂しいことです。 どうか私の贈り物として、受け取ってください。 旅行クーポンの形で送れば、二人で好きに行き先を選べるし、贈り主もわかりにくいでしょう。
 どうか快く受け取ってください。 せめてそのくらいは、私の立場でもやらせてほしいのです』











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