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羽衣の夢
181 式の話合い
職場に長電話はかけられない。 二人は急いで打ち合わせ、夕方に祥一郎が仕事を終え次第、深見家に駆けつけることになった。
登志子が友也に予言したとおり、寿司の登場となりそうだった。
その日、初めて登志子は大学の講義を一つ休んだ。 心臓が高鳴って気持ちが集中できず、形だけ授業に出ても、何も理解できない状況だった。
彼が来る。 あんなに喜んで、羽が生えたように飛んでくる。
日頃義務には厳しい母も、その日ばかりはサボリを無言で許してくれた。 祖母の加寿は大喜びで、祥一郎の好物と聞いた海苔せんべいを買いに出かけ、真っ先に学校から帰ってきた友也も、ついでにヌガーを買ってもらえそうなので一緒についていった。
家の中に興奮が満ちていた。 父もなんとか工面して仕事を早く切り上げ、七時前に帰宅した。
家族が全部揃い、いつもきれいな居間を更に片付けて待ち構えているところへ、玄関のチャイムが鳴った。
みんな一斉に登志子を見た。 彼女はもう半分立ち上がっていて、突んのめりそうな勢いで廊下へ出ていった。
鍵はかけていなかったため、祥一郎は既に引き戸を開いて、半分足を踏み込んでいた。
その体が、登志子を見たとたんに止まった。 髪が風に吹かれて額に落ちているのが、普段以上に若々しく見えた。
「登志ちゃん」
「いらっしゃい。 さあ上がって」
差し出した手を、彼がしっかり握った。 大きくて少し荒れていて、温かい肌触りだった。
そのまま、靴を脱ごうともせず、祥一郎は登志子に腕を回した。 これまでこらえていたものが、一気に表に出てきた感じだった。
しばらく無言で、痛いほど抱きしめていた後、片腕だけは離したが、右手で抱きよせたまま、祥一郎は素早く靴を脱いだ。
器用に足先で引き寄せて揃えているので、登志子は思わず笑った。
「よくやってる?」
上げた祥一郎の頬も緩んでいた。
「ああ、同僚と座敷へ上がるときなんか」
ペットがいない分、廊下がピカピカで、スリッパの必要はなかった。 二人はそっと手をつなぎ、顔を見合わせてから、襖を開けた。
賑やかな祝福と、和気あいあいの食事の中で、挙式のことまで話が及び、大ざっぱな日程が決まった。
式は、大きな行事がない十一月の、できれば中頃にする。 これは既に祥一郎が家人に話して、了解を取っていた。
形式は、両方の親と本人たちが共に望んだ神式で、結婚衣裳は当然、白無垢ということになった。
「披露宴は打ち掛けにする? できれば私が縫いたいんだけど」
晴子の申し出に、登志子は目を見張り、感激で泣きそうになった。
「お母さんが……? うわ〜、なんか、夢みたい」
娘が予想以上に喜ぶので、晴子は俄然張り切った。
「二ヶ月半あるから、充分間に合うわ。 祥一郎ちゃんのお母さんも一緒に、生地選びしましょう」
祥一郎も感動の面持ちだった。
「うちの母、喜ぶと思います。 姉がいなくなって、家から花嫁が出せなくなったってがっかりしてますから」
「それはありがたいわ。 私も最近老眼ぎみになっちゃって、少し時間がかかるかもしれないけど」
晴子は冗談を言って、名前のように晴れやかに笑った。
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