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羽衣の夢
170 真犯人の顔
平和で楽しい正月が過ぎ、新学期が始まって一ヶ月ほど経ったある日、驚くべき警察発表があった。 鞍堂社長殺害未遂の犯人が逮捕されたが、その男は社長の知り合いでも敵でもなく、単に有名人だから殺して名を上げようとと思ったという衝動的な犯行だったという。
こういう、被害者とつながりのない犯罪は、迷宮入りになりやすい。 だから地道に捜査して証拠固めをやり、逮捕に踏み切った警察は鼻高々だった。
テレビで犯人の写真を見て、深見一家は犯人の歪んだ動機に、なんとなく気づいた。
「この人、鞍堂さんに似てない?」
みんなの心の声を代表して、加寿が最初に言い出した。 すると夕食後で茶の間にたむろしていた家族が、一斉に大きくうなずいた。
「似てる。 顔も似てるし、髪型まで同じにしてるみたい」
そう指摘したのは晴子だった。
犯人は、年も社長に近い二九歳で、普段はおとなしいが、かっとなると急に暴力的になる性格だという。 自分勝手な面があり、転々と職を変えていた。
「若いのにやり手の社長に憧れてたんだろうな。 その気持ちが妬みに変わったのかも」
「え? じゃ、お父さんも気をつけないと」
急に矛先を向けられて、吉彦はびっくりして友也を見返した。
「なんで! 父さんはもう中年だぞ」
「だってお父さん、今度常務になったじゃない。 出世が早いと、お父さんも妬まれる」
友也は真顔で、本当に心配しているようだった。 加寿は笑いをこらえ、晴子と登志子は末の弟を懸命になぐさめた。
「大丈夫。 お父さんは鞍堂社長みたいに有名じゃないでしょう?」
「それに、印刷の仕事にとっても詳しくて現場に必要だから、万一襲ったって、他の人にお父さんの代わりはできないのよ」
「鞍堂さんの代わりはできるの?」
登志子は一瞬、言葉に詰まった。
「……できないと思う。 ずっと会長に厳しく鍛えられてるから。 でも、若いと親の七光りだと勘違いする人がいるんじゃないかな」
「七光りって?」
好奇心の強い年頃の友也は、どこまでも突いてくる。 それまで立膝を抱えて滋とオセロをしていた弘樹が、顔を上げて説明した。
「実力ないのに、親の力でひいきされること。 親が偉すぎるのも辛いかもなー」
「うちぐらいが理想だよ。 丈夫でしっかりしたお父さんで、適度に地味ってのが」
適度に地味、と呟いた後、吉彦は満面の笑顔になった。
「おぉ、理想なのか、滋。 素直に嬉しいな」
「お父さんはハンサムよ」
不意に晴子がむきになった。
「だから似てるあんたももてるんじゃない。 感謝しなさいよ」
弘樹がプーッと噴き出し、滋を突っついたため、むきになった滋が押し返し、オセロ盤が倒れて、どっちの勝ちかわからなくなった。
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