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羽衣の夢   168 事件の余波


 帰りの電車で、二人はぴったりくっついて座席に座った。 車内はそれほど混んでいなかったが、体を寄せ合っていると、どちらにも安心感があった。


 真冬だから、深見家に帰り着いたとき、辺りはもう真っ暗だった。
「ただいま」
 そう言って登志子が玄関を開けたとたん、中から家族の少なくとも半分が出てきて、わっと取り囲まれた。
「ニュース、知ってる?」
 真っ先に高い声で問いかけてきたのは、緊張した顔の友也だった。 登志子と祥一郎は、同時にうなずいた。
 上がりかまちに立つ弘樹の肩に手をかけて、加寿が横から顔を覗かせた。
「ひどいねぇ。 ぶっそうな世の中だ」
 晴子も固い表情で、登志子を迎え入れながら呟くように言った。
「おかえり。 せっかく楽しく出かけたのに、残念だったわね」
 祥一郎も中に招き入れられて戸を閉め切ると、一家は話題を切り替え、東京タワーはどんなふうだったかとか、買物はうまくいったかなど、なごやかに訊いた。 祥一郎は茶の間に上がり、一時間足らず話やゲームに加わって、それから帰り支度をした。
「もう十時近いよ。 泊まってったら?」
「十時なの? 新しいニュースをやるかしら」
 晴子がリモコンを押し、テレビ番組を探した。
 すると、九時四十五分からの地域ニュースで、間もなく鞍堂が運ばれた病院の画像が出た。
「……正式な病院発表はまだですが、社長の傷は深いようで、今夜が峠ではないかと囁かれています。 先ほどお父さんの鞍堂達弘会長が急遽到着し、あわただしく入っていくのが見受けられました」
 そこへ、外出から帰ってきた吉彦が加わり、腕を組んで画面に見入った。
「会合でも話題になっていたよ。 ひどいね、闇討ちとは。 脇を刺されたというのは、たぶん後ろから襲ってきたのに気がついて、振り返ったんだろう」
「気の毒だけど、お見舞いできないよね」
 それまで黙っていた滋が、冷静に言った。
「お姉ちゃんが困る」
 確かにそうだ、と登志子は思った。 誰より困るのは、他ならぬ鞍堂社長自身だろう。


 翌日の日曜日も、鞍堂の容態は変わらなかった。 もやもやを抱えて、登志子は午後に祥一郎に電話をかけた。 弟たちの泊まれ泊まれ攻撃を何とか乗り切って、彼は夜中に自宅へ帰っていた。
「昨夜は疲れた?」
「いや、登志ちゃんは?」
「元気。 でも明け方に怖い夢見ちゃった」
「そうだよな。 いわゆる要人暗殺ってやつだろう? 夢見が悪いのは当然だよ」
「まだ犯人わからないんですって」
「意識が戻れば、犯人の人相を言えるんだろうけど」
 緊急手術の後、鞍堂はICUに隔離されていて、面会謝絶状態だった。







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