表紙

羽衣の夢   132 嫌い嫌いも


 登志子は目を丸くして、三津子に問うた。
「なんで?」
 重々しい表情で、三津子は友達の腕に手を置き、お坊さんのようにうやうやしく答えた。
「決まってるでしょう? 登志子ちゃんと一度でもちゃんとしたデートして、後でやっぱり付き合えないって言われたら、その人死んじゃうよ?」
 登志子は驚いて息を引き、強く首を振った。
「死ぬなんて言っちゃだめ。 それに大げさよ。 私の代わりなんていくらでも……」
「いない」
 これまたきっぱりと、三津子は断言した。
「私、女でよかったと思ってるもん。 一生登志子ちゃんの友達でいられる。 でも男なら、きっと苦しいよ。 他の男に取られたら絶対」
「三っちゃん……」
 登志子は少しの間ことばを無くして、幼なじみを見つめた。 それから両腕を広げ、ぎゅっと抱きしめた。
「一生友達でいてくれるの?」
「うん」
 嬉しそうに登志子に寄りかかったまま、三津子はうなずいた。
「年賀はがき全部取ってあるよ。 学校友達は、卒業したらだんだん遠くなるけど、登志子ちゃんはたまにしか会わなくても、見たらすぐ昔に戻れる」
 そういえば、そうかもしれない。 登志子は前から、自分の気持ちに正直で裏表のない三津子が特に好きで、一緒にいると気持ちが安らいだ。


 三津子と共に山岸家に戻った登志子は、まだ祖母たちの話が終わりそうにないので、二人で近所に出来たという新しいファーストフード店に行ってみることにした。
 今のところ、登志子の通う私立高校では新設のそういった店に慎重で、できれば行ってほしくないと言われていた。 だからよけい好奇心があり、白で統一された店内に入るときは、ちょっとわくわくした。
 出された食事そのものは、あまり登志子の口に合わなかった。 ぱさつくハンバーガーと、どろっとした飲み物と、塩辛いポテトチップより、晴子の作るホットサンドとヨーグルトドリンクのほうが、慣れている分おいしく思われた。
 お互いの学校で起きたこっけいな出来事を話し合って、ひとしきり笑った後、三津子がストローを口から離して、しみじみと言った。
「あーあ、ちゃんとした男子と付き合ってみたいなー」
「ちゃんとした男子?」
 ちゃんとしてない男子って、どういう人だろう、と思いながら、登志子は訊いてみた。
「そう。 どこに行く? とか、何する?とかいちいち訊いたり、黙って俺についてこいって何も説明しなかったり。 そんなのばっかりなんだもん。 両極端なの」
「三っちゃんが付き合った人?」
「そう」
 三津子は可愛いふくれっ面をした。
「自然体でさっぱりした男の子、どこかにいないかな」
 高雄ちゃんがそうじゃない? とあやうく言いかけて、登志子は口をつぐんだ。 三津子が兄と口げんかばかりしているのは、有名な話だ。
 そのとき、不意にある考えがひらめき、持ち上げたコップを手からすべらせそうになった。
──三っちゃん、本当はお兄さんみたいなのがタイプなの?──







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