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羽衣の夢
131 友の助言は
高雄は写真の中で、嬉しそうににやけていた。 一方、太陽が眩しいのか、祥一郎は目を細めて、光線をさえぎるために片手をあげていた。
だから微妙に顔立ちが変わって、最初見たときに彼と分からなかったのだ。 登志子は念のため、もう一度観察してから、祥一郎の傍にくっついている女子に視線を移した。
その子は、文字通り祥一郎にしがみついていた。 彼の肩に右手を載せ、それでも不安なのか左腕を彼の肘にからませて引き寄せている。 大きくなりすぎたダッコちゃんみたいだった。
それに引き換え、祥一郎の体はまっすぐ立っていた。 高雄がスチュワーデス嬢に屈みこんで身を寄せているのと対照的だ。
この女の人、片思いなんだ、と、登志子はすぐ気づいた。 そうわかっても、気の毒だという気持ちにはならなかったし、逆に優越感を味わうこともなかった。
登志子はただ、こう思った。 人を好きになるってこういうふうに、自然とさわったりひっついたりしたいってことなのに、どうして自分にはできないのだろう、と。
登志子が黙って、兄ではないカップルのほうを見ているのを、三津子はちょっと不安そうにちらちらと眺めた。
「えーと、祥ちゃんと一緒にいるその人は、会社の上役のお嬢さんなんだって。 祥ちゃんに一目惚れして、つきまとってくるの。 うるさいけど、すごい上等のスポーツカー持ってるから、乗せてもらうと楽しいって、兄ちゃんが言ってる」
なるほど。 デートの魅力を増すために、高雄ちゃんは祥一郎の女友達の車を利用してるわけなんだな。
みんな色んな努力をしてる。 恋を叶えるために、精一杯売り込んでいる。
登志子は何だか、自分がすこし嫌になってきた。 花の十八になったというのに、なんで恋愛ができないのだろうか。
一番好きなのは、祥ちゃん。 それは間違いない。 彼は別格で、他の男子はみんなかすんでしまうほどだが、抱きつく自分の姿が想像できない。 この写真のお嬢さんのように。
小さく吐息をついてから、登志子は写真額を三津子に返した。
「三っちゃん、最近デートした?」
三津子はたじたじとなり、写真を後ろに隠すようにしてうつむいた。
「うーん、デートと言えるかどうか。 中学のときの友達が、こないだ電話かけてきて、映画の招待券あるから一緒に行かないかって」
「行った?」
「うん。 帰りに二人でワンタンメン食べた。 あまりロマンスっぽくないよね〜」
登志子は横に首を振り、静かに言った。
「いいな〜。 私はそういうの一度もない」
「ふつう信じないよね。 登志子ちゃんみたいな人が、デートしたことないなんて。
でも、私は信じる」
妙に力を入れて、三津子は断言した。
「登志子ちゃんはさ、運命の人ができるまで、デートしちゃだめだと思う」
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