表紙

羽衣の夢   130 写真の中に


 深見家の子供たちはみんな人気者で、クリスマス付近には、招待がそれこそ山のように来た。
 その中で、登志子は久しぶりに、祖母の加寿と下町へ行く道を選んだ。
 生まれの秘密がわかってから、ずっとご無沙汰していた。 故郷といえる場所なのに、行けなかったのだ。 その前にも、人目を引きたくない加寿が滋のほうを連れていっていたため、本当に長らく戻っていなかった。 だからどうしても、行くべきだと思った。


 二人が山岸家に着くと、嫁の真里子がわざわざ玄関から出てきて迎えてくれた。
「加寿おばさん、待ってたのよ〜。 あら登志子ちゃんまで来てくれたの? さあ、早く入って入って」
 二間続きの和室には、悦子や志津など加寿の友人たちがずらっと座って、饅頭や羊羹〔ようかん〕をつまみながら待ち構えていた。
「やっと来たわね〜。 積もる話がたまってんのよ〜」
「簡単には帰さないからねー。 あらまあ、また一段ときれいになったわね〜登志子ちゃん。 こっち座って、おばちゃんたちに顔見せてちょうだい」
 といった感じで、登志子は五人のおばさん、ご隠居さんたちにもみくしゃにされたが、とても楽しかった。
 挨拶が一段落してから、加寿がさりげなく切り出した。
「ここしばらく、この子のことで気を遣わせちゃったから、今日はお礼に」
 すると一斉に声が上がった。
「なに言ってるのよ〜。 困ったときはお互いさまでしょ?」
「人のことこそこそ嗅ぎまわるなんて礼儀知らずよね。 私達、そんなに口が軽くないからね」


 やがて登志子は、去年に祖母の須江を失った高梨家に足を運んだ。
 兄の高雄はスキー旅行に山形へ出かけたとかで留守だったが、三津子は家にいて、登志子の顔を見ると、ただちに飛びついてきた。
「わぁ、久しぶりっ!」
 そして、他の家族が出はらっているのをいいことに、登志子を自分の部屋にさらっていって、同世代だけにわかる話に夢中になった。
 お茶とロールケーキを前に、さんざんだべった後、三津子の話は家族のことになった。
「あのね、兄ちゃんに彼女ができたのよ。 信じられる? あの兄ちゃんにだよ〜」
 高雄は充分男前だから、登志子には簡単に信じられた。
「そうなの? どんな人?」
「スチュワーデス。 大学の友達に紹介されたんだって」
 当時の花形職業だ。 登志子はちょっと驚いた。
「じゃ、美人でしょう?」
「まあね。 でも登志子ちゃんには全然かなわない」
「またそんなこと言って」
 何かにつけて兄に対抗意識を燃やす三津子の言うことだ。 登志子は笑って軽く片付けた。
 すると三津子はむきになり、勝手に兄の部屋に入ると、机に飾ってあったらしい写真を持ち出してきた。
「ほら、見てよ。 スタイルはいいけど、顔はそんなでもないでしょう?」
 いわれるまま、登志子は大判の写真を眺めた。 場所はどこかの公園らしく、楽しそうに並んでいる四人の男女が写っていた。
 三津子が指差したのは、髪をアップにした背の高い若い女性だった。 季節は秋の終わり頃で、右手に鮮やかなもみじが写りこんでいた。
 その女性は、流行の先端を行く格好をしていた。 服装もそうだが、メイクをばっちり決めすぎて、素顔がよくわからないのだ。 マスカラや付け睫毛をたっぷり使う時代だった。
 目の周りの黒と、不自然なほど白い肌との対比で、登志子は顔立ちを判断できず、困って横に視線をそらした。
 そのとき、初めて気づいた。 一緒に写っているカップルの男性が、中倉祥一郎であることに。







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