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羽衣の夢
123 向き合って
この夏休みでまた写真の枚数が増え、重くなったアルバムを、登志子は両手で抱えるようにして、急いで持ち帰った。
赤ん坊のときの写真は少なかった。 公式の生まれ月よりどう見ても大きめだし、戦争末期だったため、撮影どころではなかったのだ。
それでも二枚だけ、かろうじて写真が残っていた。 どちらも夏のもので、一枚は晴子が縫った甚平〔じんべえ〕を着て、座布団の上に寝ているもの。 そしてもう一枚は終戦後間もなく、オーバーオール型の水着を着て、たらいではしゃいでいる姿だった。
その二枚を見つけたとたん、嘉子はアルバムに覆い被さり、食い入るように眺めた。 無意識に口が動き、一つの名前を繰り返し呼んだ。
「こずえ……こずえちゃん……」
私は『こずえ』という名前だったんだ──登志子の胸が、不思議な感じに震えた。 嘉子の心にわずかな疑念が残っていたとしても、過去の写真を見た今は、もうまったく消えた。 まちがいなく、登志子は嘉子の失った赤ん坊だったのだ。
まだ嘉子が我が子の写真から目を離せないでいるうちに、大急ぎで着替えた吉彦と晴子が、あわただしく襖を開けて入ってきた。 その後から、加寿も続いた。
「失礼します。 深見吉彦と」
「晴子です」
声がわずかに震えていたが、晴子も気丈に自己紹介した。 畳に座り、丁寧に頭を下げあった後、重い雰囲気の中、嘉子が最初に口を開いた。
「勝手にやってきてお嬢様を呼び出して、本当に申し訳ないことをいたしました」
「昨日、お会いになったんですね?」
吉彦は既に、きっかけを察しているようだった。
「はい、みなさんが盆踊りをなさっているときに。 ご心労をおかけしましたので、もう心配はないと一刻も早くお知らせしたくて」
嘉子の一言で、魔法のように部屋の緊張がほぐれていった。
夫妻は勢いよく顔を見合わせ、両方から手を出して握りあった。 そしてすぐ嘉子に向き直ると、吉彦が代表して静かに尋ねた。
「あの、ぶしつけですが、やはり登志子のお母さんでいらっしゃいますか?」
一瞬間を置いてから、嘉子も気負うことなく、自然に答えた。
「はい。 私の産んだこずえです。 間違いなく」
こずえ──晴子の唇が、声を出さずに動いた。
次いで、ごく小さく訊いた。
「それは、木の梢という字で……?」
「そうです」
嘉子がそのとき、初めて晴子と視線を合わせた。
二人の母親は、万感の思いを胸に、しばらく見詰め合った。
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