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羽衣の夢
108 見てほしい
翌朝、朝食の後、祥一郎は期待わくわくで集まってきた少年たちに、ぴしりと言い渡した。
「午前中は勉強なんだろ? きちっとやってからな」
下の二人はすぐ納得したが、弘樹は抜け道を見つけようとした。
「でも祥一ちゃんはお客様なんだから、僕らでもてなさなきゃ。 今日は特別ってことにしようよ」
すると祥一郎は、にこっと笑って言った。
「ほお、いいこと言うね」
そして、色めきたった弘樹にボールを投げ返した。
「じゃ客として、やりたいことを選ばせてもらう。 週末までお世話になるんだから、今日はお礼に加寿おばさんと晴子おばさんのために働く」
ぐっと言葉に詰まった弘樹を見て、滋がにやにやした。
言ったことは実行する祥一郎は、恐縮する晴子に食い下がって、キーキー音のする裏門に油をさし、使いにくい位置にあった食器棚を移して、裏庭の掃除をした。
古道具屋のバイトをしたことがあるそうで、家具の下に古いシーツを敷いて動かす手順など、慣れたものだった。
「こうすると床が痛まないんで。 大掛かりなときはそれなりのジャッキや台車を使いますが」
流れる汗をものともせずにかいがいしく働く青年を見ながら、晴子はふと思った。 役に立つ男だと、誰かに見せたいんじゃないかしら、と。 そして微笑んだ。 登志子のようなまっすぐで素直な子には、なかなか効果のあるやり方かもしれない。
一時間ちょっとで、すべての雑用が片付いた。
風呂に入ってさっぱりした祥一郎に、登志子がよく冷えたサイダーを運んでいった。 表のベランダで柱にもたれ、ゆったりとうちわを使っていた祥一郎は、白い盆を持った登志子が現われたので、笑顔になって身を起こした。
「お、わざわざサンキュ」
「こちらこそありがたかったです。 お父さんもあの食器棚動かそうとしたんだけど、うまくいかなくて腰痛になりかけたの」
「弘樹くんがもうじき手伝えるようになるよ」
盆を折りたたみテーブルの上に置いた後、登志子はちょっと切なくなって告げた。
「どうかな。 あの子には無理させられないってお医者さんが」
サイダーを勢いよく飲みほしていた祥一郎の腕が、ゆっくり下りた。
「小さいころは弱かったけど、もう大丈夫かと思ってた」
「元気なのよ。 ただ、他の子より体力の限界が早く来るの。 それなのに本人は、人一倍動き回るのが好きで」
「つらいだろうな。 思いっきり暴れたいのに、いつも中途半端でやめなきゃいけないなんて」
「ほんと」
そう言って目を伏せた登志子の睫毛が、頬に長い影を作った。
祥一郎は視線を外せなくなった。 少女らしく丸みを帯びた顔の輪郭と、柔らかに光るしなやかな首筋。 上品なプリントのサンドレスから伸びるほっそりした腕の線。 登志子は若者の夢がそのまま現実世界に浮かび出たような姿をしていた。
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