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羽衣の夢
104 傍に来ると
新鮮なまぐろや鯛の刺身、赤貝の酢の物、レタスのサラダなど、出された料理をすべて、祥一郎はおいしそうに平らげた。 横に座っていた友也が、見た目が悪いので好き嫌いしていたイカの塩辛に箸をつけてみる気を起こしたほど、気持ちのいい食べっぷりだった。
「ごちそうさまです」
「ごちそうさま!」
一斉に声が上がって、昼食が終わると、弟たちはさっそく祥一郎を裏手の林に連れていこうとしたが、加寿が止めた。
「今日は午前中にずいぶん運動したし、祥一ちゃんも電車で揺られて疲れてるはずよ。 二時まで家の中でおとなしくしていて、それからいつものようにお昼寝。 わかった?」
「はい」
滋が溜息混じりに答え、友也もしぶしぶ承知した。 体調が心配なのは、幼い子たちより長男の弘樹なのだが、一番興奮しやすくて動きたがりは他ならぬ彼だった。
「もう来年は高校生なのに、まだお昼寝?」
弘樹が口をとがらせると、すぐ登志子がやんわりと説得した。
「私なんて来年は高卒だけど、お昼寝するわよ。 夏は気持ちいいもの」
「じゃ、僕も一眠りしようかな」
祥一郎までそう言いだしたので、弘樹もそれ以上反抗できず、あきらめて自分の部屋へ何か取りに行った。
別荘の台所はリビングとつながっていて、変形のDKになっていた。 だから晴子は食器の後片付けをしながら、会話に加わった。
「祥一郎さんご家族は皆さんお元気?」
「はい」
身軽に立ち上がりながら、彼は答えた。
「ただ、そろそろプラモデル工場が乱立してきたんで、父は少しずつ製品の切り替えを考えてるようです。 給食用のプラスチックの食器とか」
「なるほどねぇ。 今の世の中、移り変わりが激しいから」
そう話しているうちに、祥一郎は晴子から洗った食器を受け取っている登志子の横に並んで、自分も布巾を取った。
「あれ? 祥一ちゃんはお客さんだから、座ってて」
登志子が戸惑うと、彼はにやっとして、さっさと大皿を引き受けてしまった。
「一人で座ってると気まずい。 合宿でいつもやってたから」
「ほんとにいいのに」
「洗濯もしたよ。 洗濯機が旧式で、ローラーで絞るやつでさ。 それもすぐ壊れて、部員が二人がかりで洗濯物ねじるんだ。 ユニフォームの襟とか袖がみんな斜めによれて、裾がダダ伸び。 おまけに干し方が雑だから、しわくちゃ」
晴子と加寿が声を上げて笑った。
登志子も笑いたかったが、すぐ隣に立っている大きな体に圧倒されて、気が散った。
祥一郎は、石鹸と健康な男の体臭が仄かに混じった、引き込まれるような匂いがした。
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