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羽衣の夢   103 歓迎の輪に


 別荘に着くと、心待ちにしていた晴子と加寿が、祥一郎を喜んで出迎えた。
「いらっしゃい! まあ、立派になって」
「暑い中、よく来てくれたわね」
「ご無沙汰してます。 招いていただいた御礼にと、父がこれを」
 ぎゅう詰めの青いバッグから、手品のように五つの箱が出てきた。 まずは親たちに菓子の詰め合わせ、それと大人用二つに初心者用一つのプラモデル・セットと、あと一つは趣の違うピンクの花模様でくるまれていた。
 二箱と三箱を分けて受け取った母と祖母は、礼を言いながら花模様に注目した。
「まあ、かえって気を遣わせてしまってごめんなさいね、ありがとう。 それで、これもプラモデル?」
「いや、それは母からで、登志……登志子さんにって」
 登志子ちゃんと口に出しかけて、いかにも言いにくそうにさん付けにした。 すぐに加寿がにこにこして忠告した。
「登志子ちゃんか登志ちゃんにしといて。 幼なじみじゃないの。 さあ入って入って。 お部屋に案内するわね」


 洋風の別荘ではあるが、ちゃんと和室もあって、祥一郎のために整頓された部屋は、床の間付きの六畳間だった。
 彼は恐縮しながら、頭を少しかがめて鴨居をくぐるようにして、中に入った。
「すみません泊めていただいて。 うちでも畳の部屋だから嬉しいです」
「来るの暑かったでしょう? お風呂用意しましたから、さっと汗流して、そのあとみんなでお昼にしましょう」
「え? ありがとうございます」
 晴子の言葉に顔を上げた祥一郎を、弘樹と友也が囲んで、はしゃぎながら風呂場に連れて行った。 いつもは冷静な滋まで、笑顔で後についていくのを見て、晴子が感心した様子で加寿に言った。
「大きくなったわねぇ。 背丈もだけど、なんか大人としての幅ができたというか」
「もともとしっかりした子だったけどね、最近じゃ将来の町内会長だなんて言われているらしいよ」
「まあ気が早い」
 笑いさざめく祖母たちと共に、登志子も食事作りの手伝いに台所へ向かった。 手には祥一郎の持ってきた贈り物の箱が握られたままだ。 早く中を見たかったが、なんとなく親たちの前では開ける気になれなかった。


 しゃれた暖炉のあるリビングで、女三人が海の幸いっぱいの皿を並べていると、にぎやかな話し声を伴って、男連中がやってきた。
 なんと、風呂場が広いのをいいことに、男の子たちは祥一郎と一緒に入り込んで、シャワーをかけあっていたらしい。 晴子が困って、息子達の行儀の悪さを詫びたが、Tシャツに着替えてさっぱりした祥一郎はまるっきり気にしていなかった。
「うちはよく従業員の人たちと銭湯に行くんで、大勢で入るのは慣れてて。 はしゃぎすぎたかな」
「いいえ、祥一郎さんが悪いんじゃないわ。 でも初日から、うちの子なれなれすぎますよね」
「でもね、お母さん、濡らしたところはちゃんと拭いたんだよ。 ぼくたちみんなで下のほう拭いて、祥一ちゃん背が高いから、上のほうまでピッカピカ」
「まあ……」
 なんと気配りのいい。 友也の言葉に晴子は目を白黒させ、加寿は笑みくずれた。
「すごいわ、祥一郎ちゃん。 弘樹に掃除手伝わせたの? そんなことできるのは吉彦さんだけだったのよ」








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