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羽衣の夢   47 美しく成長


 男の子たちが寝てしまった九時過ぎ、ようやく祖母の加寿が家に戻ってきた。
 出迎えた登志子にせわしなく話しかけながら上がってきた加寿は、予想より明るくて活気があった。
「お留守番ほんとにご苦労さん。 晴子がいつもとちがって様子がおかしくて、初めは心配したけど、今はもう麻酔から覚めたし、元気よ。 私より吉彦さんがいるほうが安心するみたい。 ほんと仲が良くて、やけちゃうぐらい」
 笑顔で祖母を迎え入れながら、登志子は思った。
──お父さんだけじゃない。 頼もしいのはお祖母ちゃんも同じ──
「赤ちゃん可愛い?」
「うーん」
 めずらしく加寿が首をかしげた。
「まだわからない。 もうちょっと経ってみないとね。 今んとこ、真四角な顔してるわ」
「真四角?」
「そう、皺の寄ったお座布団みたいな」
 二人は顔を見合わせて、小さく笑い出した。


 こうして、初めは家族全員を心配させた友也も、その後はすくすく育ち、母に抱かれて真っ白なベビー服で退院してきたときには、ちゃんと丸く愛らしい顔になっていた。




 一方、年を重ねるにつれて、登志子は輝きを増した。 毎日見ている家族が気付かないうちに、どこへ行っても注目され始め、通学の電車内や道筋で、何人もの熱い視線を浴びせられるようになった。
 やがて楽しく気楽な中学時代は羽根が生えたように過ぎ去り、登志子は飛びぬけた成績で、付属高校に進学した。
 彼女の通う付属校は、小学校と中学校が同じ敷地にあり、高校は少し離れた大学の構内に建てられている。 屋上に上ればお互いの校舎が見えるぐらい近い距離だ。 それでも通学の電車区間は一駅長くなった。


 入学式に両親と共に出席した登志子は、学年総代として、新入生の答辞を述べた。 大講堂で、客席の真中の通路を静かに歩んでいるとき、すでに父兄席や学生席には潮のように密かなざわめきが広がり、先生方と在校生代表に一礼して紙を読み上げている間だけ静まり返って、その後はすごい拍手がはじけた。
 男子学生による歓迎の辞に比べて、倍は大きかったように聞こえた。


 式後に催された新入生の歓迎会には、付き添ってきた家族も同席する決まりだった。
 登志子を挟んで座った父と母は、どちらも戸惑った顔をしていた。 その日、二人はようやく、自分たちの長女がちょっとした美少女どころではなく、人目を惹きつけて離さない独特の『麗しさ』を発揮しはじめているのを悟ったのだった。
 それは顔立ちや姿だけのことではなかった。 流れるような身のこなし、無意識に髪をかきあげたりしてほっそりした手を動かす仕草から、穏やかで深みのある声にいたるまで、どこを取っても登志子には、いうにいわれぬ優雅さが備わっていた。








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