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羽衣の夢
41 妙な新入生
持っていったボールは大いに喜ばれ、一方で加寿の旅行打ち合わせもうまくいった。 だから祖母と孫はすっかりいい気分になって、帰り道に足を伸ばして銀座に寄って、フルーツパーラーでささやかな贅沢をしてから、家に帰った。
穏やかな日々が、その後も続いた。
末っ子の滋は、さいわい大病をすることなく元気に育った。 そして真中の弘樹は、本当に死にかけたのかと疑いたくなるほど活力に満ちあふれた少年になり、登志子の後を追って同じ学校にめでたく入学していた。
最初のうちは姉と登校していたが、慣れてからは上級や同級の男子と通学するようになって、電車でもわざと別の車両に乗ったりした。 これが祥ちゃんのいう姉さん離れなのかな〜、と、登志子は少し寂しくなったが、家に帰ると相変わらずよく話しかけてくるし、弘樹の人なつっこい態度はまったく変わらなかった。
やがて登志子は、同じ学園の中学に進学した。
組の中では、小学校からの友達がほとんどそのままで、校舎が変わっただけという気楽な雰囲気だった。 それでも他所から中学部の入学試験を受けて入ってきた新顔もちらほらいて、教室に新鮮な空気をもたらしてくれた。
その中に、美浦麻耶〔みうら まや〕という子がいた。 すらりとした色白のきれいな子で、和風というより、当時もてはやされたエキゾチックな顔立ちをしていた。 目が切れ長で、しかも大きく、どこか豹のような印象を与える。 態度も他の子と少し異なっていた。
麻耶がまず最初に騒ぎを起こしたのは、初めての体育の授業があったときだった。 二時間目の数学が終わり、女子用の更衣室で賑やかに着替えて体育館に集合したとたん、待っていた江森早苗先生の目が、一点に釘付けになった。
挨拶も忘れて見つめ続ける先生の視線を、自然に皆が追った。 その先にいたのは、一番後ろから室内に入った美浦麻耶だった。
生徒の一人が、ウッというような声を洩らした。 他の女子たちもあっけに取られ、中には顔を赤くした生徒もあった。
三秒ほどして最初の衝撃から立ち直った先生は、強ばった声で一言一言区切りながら、唸るように言った。
「いったい、何ですか、その格好は!」
麻耶は瞬きした。 なぜ非難されるのか、よくわからなかったらしい。
「え?」
先生の顔が朱を帯びた。
「その恥知らずな格好です! 学校指定のブルマーを、あなたどこに置いてきたの!」
「これですけど」
そう答えながら、麻耶は自分の体操着に触れてみた。 まだ理解できないらしい。
とうとう先生は本格的に真っ赤になって、声を落とした。
「それのわけないでしょう! ピッチピチで、お……おヒップが見えそうじゃないの!」
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