表紙

羽衣の夢   38 正義の味方


 登志子は目を丸くした。 祥一郎のほうから掛けてくるとは思わなかったのだ。
 急いで祖母から受話器を受け取ると、登志子はどきどきしながら畳に座って、声を出した。
「代わりました」
「深見?」
 まちがいなく、祥一郎の澄んだ声が伝わってきた。 父と祖母が傍にいるから、登志子はどう返事していいか、ちょっと悩んだ。
「そう。 わざわざかけてくれてありがとう。 こっちから電話しなきゃいけないのに」
「いいよそんなの」
 そっけないほどあっさりと、祥一郎は言った。
「で、なんか用?」
「あ」
 ますます話しにくい。 登志子がためらっていると、祥一郎のほうから口を切った。
「あの西っていう女、おとなしくなった?」


 やっぱり! 登志子は反射的に胸を押さえた。
「ずっと凄いことになった。 辞めちゃったの」
「学校を?」
「そう」
「へぇ、大成功だ」
 祥一郎は落ち着きの中にも嬉しさをにじませて応じた。
「ねえ、何があったの?」
「正義の裁き」
「え?」
「こらしめたんだ。 仲間を何人か連れてって」
 うわーっ。
 登志子の顔が青ざめた。
「まさか……力使ったの?」
 妙に遠まわしな言い方だと思っただろうが、祥一郎はすぐ答えた。
「いや、使う必要なかった。 いじめる奴ってさ、自分がやられたら一番いやなことしてるんだ。 だから取り囲んだだけで腰抜かしちゃって、情けねーの」
 そうかもしれない。 佐祢子が直接いじめたのは、特におとなしい同級生や、逆襲する力のない小さな下級生ばかりだった。
「あ……ありがとう。 私、自分でやるつもりだったんだけど」
「だろうと思った。 でも女一人じゃ手に負えないぞ」
 はっきり言われるとちょっと傷つく。 でもそれ以上に、登志子は祥一郎たちが気がかりだった。
「祥ちゃんたちも危ないんじゃない? 説明したでしょう?」
 怖い親が後ろについていると、たしか初めにちゃんと言ったはずだった。
 だが、祥一郎は自信を持って言い切った。
「おれたちが誰か、わかりっこない。 今ごろ深見の学校の男子を探ってるだろうけど、全然関係ないんだから」
 そう言われればそうだった。 しかも、賢い祥一郎はちゃんと手を打っていた。
「それに、普段の格好で行ったわけじゃないし。 健夫〔たけお〕のおじちゃんがチンドン屋でさ、みんな怖い顔にしてもらったんだ。 ピアノ教室から帰る時間が夕方で、大きな木のある裏道から出たからさ、けっこうおっかなかったんじゃないのー」
 それを聞いて、登志子は吹き出したいのを必死に我慢した。
「すごく効き目あったわね。 こっちはほんとに明るくなって、喜んでる。 皆さんにありがとうと言ってね。 どうやってお礼すれば……」
「いいよ、そんなの」
 祥一郎はこともなげに答えた。
「おれたち月光仮面だから。 見た目は悪者っぽかったかもしんないけど」







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