表紙

羽衣の夢   36 驚きの結末


 祥一郎に自宅の電話番号を教え、登志子は期待して待った。 祥一郎と下町っ子がどんなやり方を考えてくれるか、とても楽しみだ。 うまく実行できるかどうかは、ちょっと心配だし、やってみて必ず効果があるかどうかもわからない。 でもただ手をこまねいているより、いくらかでも佐祢子を反省させたいと思った。


 その週、金曜日に佐祢子が学校を休んだ。
 珍しいことだった。 体格のいい佐祢子は健康状態もよく、皆勤賞〔かいきんしょう〕の候補だったからだ。 今は気候のいい時期で、流行性感冒になったとも思えない。
 他の生徒も、後ろの席が空になっているのにすぐ気付いた。 登校しない理由がいろいろ取りざたされたあげく、食べ過ぎの腹こわし、ということで男子の意見が一致した。
 いつもは佐祢子の手先になっている男の子二人は、その日、妙に静かだった。


 土曜日にも、佐祢子は教室に現われなかった。
 病気や怪我なら、数日の休みはよくあることだ。 でも二日いないだけで、組にたれこめていたどんよりした空気がなくなったため、正午すぎに帰宅するとき、級長の河西〔かさい〕が皆の気持ちを代弁するように言った。
「誰かさん、ずっと休みってことになるかもって……それはないか」


 まさかその言葉が予言になるとは、誰も考えていなかった。
 週が開けて、夜に台風が接近するという予報のあった月曜日、前触れの強風の中を登校してきた生徒たちは、組朝礼のとき担任が発表した情報を聞いて、あっけに取られた。
「今日は残念なお知らせがあります。 一年半同じ組で共に学習した西佐祢子さんが、転校することになりました」
 教室の中が、水を打ったように静まり返った。
 加東先生は、まるっきり無表情で話を締めくくった。
「急に決まったことなので、お別れの挨拶をする時間がないそうです。 新しい学校で元気に過ごしていけるよう、皆さんでお祈りしましょう」
 ちなみに、学園はミッション系だった。
 言い終えた後、陰でカトチンと呼ばれている陽気な先生は、笑窪を浮かべてニカッと笑った。


 一時間目の授業が始まるまでの十分間、教室は興奮の渦になった。 組替えは三年に一回しか行なわれないので、このまま卒業まで佐祢子と一緒という宿命を背負わされた五年三組は、これまでずっと沈んだ雰囲気だったのだ。
 その重石が取れた。 もうお弁当の卵焼きをかっぱらわれることはない。 トイレに行くとき廊下の端まで見渡して、面白半分に道をふさがれないか警戒しなくてもいい。
 天国だ!
 周りが沸いている中、登志子は考え込んでいた。 なめらかな額に、珍しく皺が寄っている。
 どういうことなの? という疑問が、胸に立ち込めていた。 偶然にしては、あまりにも時期が一致しすぎている。 困って祥一郎に相談して解決策を教えてもらおうとしたとたん、はかったように佐祢子が学校を辞めてくれるなんて。








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