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羽衣の夢   35 電話でGO


 日曜を挟んで次の月曜日から、登志子は調査を開始した。
 そんなに難しくなかった。 佐祢子はほぼ学校中から嫌われていると言ってもいい存在だったため、さりげなく名前を出すだけで話し相手が勝手に熱くなって、悪口が山のように噴き出した。
 その間に、貴重な情報がいくつも埋もれていた。 誕生祝いに招待された子が、大きなバースディケーキをうっかり褒めなかったせいで、持っていった贈り物を庭に捨てられたそうだ。 この子から佐祢子の家の住所がわかった。
 また、前に佐祢子と一緒にピアノを習っていた上級生が、練習してこなかった佐祢子を先生が軽くしかったところ、床に転がって泣き喚いたあげく親に言いつけ、母親が怒鳴り込んできて、へきえきした先生が教室を閉鎖してしまった話をしてくれた。
「じっくりレッスンしてくれるいい先生だったのに、私達がっかりよ。 今は山之上ピアノ教室に通ってるって。 あそこはドライで、下手な子でもどんどん進めちゃうから、うまい子はちゃんとうまくなるけど、ダメなのはいつまでたってもダメ」


 これで祥一郎に言われた情報は手に入った。 さっそく火曜の夕方に電話すると、最初に出たのはきびきびした若い男で、すぐに大声で呼ばわった。
「祥一っちゃん! ガールフレンドから電話だよー!」
 すぐにバタバタと足音が聞こえてきて、祥一郎の低い唸りがかすかに伝わってきた。
「やめろよ! そんなんじゃないって」
 電話のこちら側で、登志子は思わず笑顔になった。
 やがて受話器を取った祥一郎が、よそ行きの声で尋ねた。
「深見?」
 下町の知り合いは、男の子でも登志子ちゃんと呼ぶのに、祥一郎だけはいつも苗字を使った。
「そう。 あのね、いじめっ子の住所とピアノ教室がどこかわかった」
「よーし、ちょっと待って。 書くから」
 彼は大胆であると同時に慎重だ。 登志子が告げる言葉をきちんと記録し、小声で復唱した。
 記録は正確だった。 そこで登志子は肝心なことを訊いた。
「ね、どうやって止めさせたらいいか、やり方教えてくれる?」
「待ってな。 じっくり計画練るから。 中途半端だと効き目ないだろ?」
「そうね」
「仲間とも相談してみるよ。 今週中にきっちりまとめる」
と、祥一郎は嬉しそうに答えた。







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