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羽衣の夢   27 男の遊び方

 そこへ小路から賑やかな騒ぎが近づいてきて、埃だらけの男の子たちが次々と庭へ駆け込んだ。 六人いる小鬼どもは、みんな手に短い竹を持っていて、激しく打ち合っていた。
 高梨のおばさんが中腰になって、笑いながら少年たちに呼びかけた。
「ちょいとあんた達、チャンバラごっこはもっと広いところでやりなさいよ」
 真中あたりにいた背の高い少年が、一瞬だけ振り返って叫び返した。
「あと五分だけ! 僕右太衛門〔うたえもん〕なんです! 絶対勝たなきゃ!」
 おばさんたちは笑顔になって目を見交わした。 市川右太衛門は歌舞伎出身で、時代劇映画の大スターなのだ。 GHQから禁止されていた時代劇の撮影もようやく許され、男の子たちは垣根の竹を抜いて剣代わりにして、大いに暴れまわっていた。
「しょうがないわね、祥〔しょう〕ちゃん。 それじゃ」
と言葉を続けようとすると、最初に入ってきた坊主頭の子がすかさず茶々を入れた。
「あ、おばさん駄洒落〔だじゃれ〕言ってる!」
「え? ああ、しょうがないと祥ちゃん?」
 高梨のおばさんはプッと吹き出し、首を振った。
「気がつかなかった。 征〔ゆき〕ちゃん耳がいいね」
 得意になったとたん、坊主頭の征夫は対戦相手に打ち込まれ、あえなく尻餅をついて叫んだ。
「まいった、拙者〔せっしゃ〕の負けだ!」


 そこで団体チャンバラは勝負がついたらしい。 少年たちはがやがや話し合いをしつつ、裏口から出ていった。 ひょうきんな挨拶を忘れずに。
「おじゃましました〜!」
「皆さんお元気でー」
 おばさんたちも口々に応じた。
「それじゃね」
「車に気をつけて〜」
 最後に祥ちゃんと呼ばれた背の高い少年が、きちんと裏木戸を閉めて止め木を下ろした。
 それから彼は顔を上げた。 三津子とお人形遊びをしていた手を止めて、にぎやかなチャンバラを眺めていた登志子は、不意に彼と目が合ったので、思わずまばたきした。
 少年は考え込むような視線で、二秒ほど登志子を見つめた。 それが突然、挑む眼差しに変わると、彼はすっと向き直って肩を怒らせ、遠ざかっていく仲間たちを急がずに追っていった。






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