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31 驚く出会い



通用口の前に保が立っていた。 休日だから普段着だが、最初に出逢ったときのように髪が寝乱れて無精ひげがうっすら目立つなんてことはなく、足には新しいボアつきのサンダルを履いていた。
「よく似合う」
 すぐ服装を誉めてもらえて、円香はほっとして笑顔になった。
「服は前に運んできてたんだ。 本格的に荷物がくるのは明後日」
 引越しの準備はすでにできていた。 降り注ぐ日光は暖かいが風の冷たい午後で、二人はぴったり寄り添って歩いた。
「お父様もいらっしゃる?」
「うん、野次馬で。 大丈夫だよ、子供の友達には優しいんだから」
 円香は少し深く息を吸った。
「でもやっぱり緊張する」
「かもなぁ。 そういえば親父に会いに来るわけじゃなし、どっかへ行っててくれたほうがよかったな」
 円香はあわてた。
「いや、困るとかそんなんじゃなく」
「おれは邪魔」
 はっきり言って、保はくすくす笑い出した。


 上矢家の門は伝統的な大垣家とは対照的に、曲線的な模様を形作るアルミ製の開放的なものだった。 車庫は表の道に面していて、車が直接入れるようになっている。 門から入るのは人と自転車だけで、模様の石を敷き詰めた小道がカーブして中の玄関に続いていた。
「ただいま」
 保が明るい声を掛け、吹き抜けのある玄関内に円香を通した。 すると横にある階段をすらっとした若者が下りてきて、愛想良く声をかけた。
「いらっしゃい。 弟の……」
 そこで声が途切れた。 保が並べてくれたスリッパに気をとられていた円香は急いで顔を上げ、若者に微笑みかけようとして、えっ? と思った。
 あの子じゃないか。 自転車売り場にいて、街でも偶然出会った、あのちょっと中二病の子!
 とっさに笑顔が戻ったのは、自分でも大したものだと思った。 そのまま円香はそ知らぬ顔で、優しく挨拶した。
「こんにちは。 小田島円香です」
 斉は階段の手すりを伝って、もう二歩下りた。 そして、ぺこっと頭を下げて低い声で応じた。
「上矢斉」
 軽い足取りで上がった保が、笑いを含んだ声音で言った。
「これが弟」







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