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27 夢と現実と
父の言葉に、保は背中をどやしつけられた気分になった。 ふわふわしていた心が、一瞬で固くなった。
それでも気持ちを落ち着けて、保はおだやかに応じた。
「考えすぎだよ。 まだデートOKしてもらったばかりなんだから」
父は別にめげず、のんびりと続けた。
「でも覚悟しておいたほうがいいぞ。 あそこの住み込みと付き合うってことになったら、そういう噂が立つに決まってるんだ」
「そんな先のこと、いいよね〜? 今は本人たちが楽しければ」
母は笑い、保の背中を撫でた。
「いくら蔦野さんが天涯孤独だといったって、日本の役所は細かいから、遠縁の遠縁の端っこまで探して見つけ出すにきまってる。 変な期待は無しよ、お父さん」
「別に期待してるわけじゃないさ」
そう言って、父親はビールを飲み干した。
「ただ、あれだけの土地をむざむざ国に接収させるのはもったいないって思うだけだ。 まして遠縁の端くれなんかに渡したら、あっという間に細切れにして売り飛ばすのがオチだぜ」
父の文句の後半は、確かにそうだと保も思った。 いきなり鑑定を要求してくるようなジジイがあの土地を手に入れたら、すぐ金に変えようとするにちがいない。
「小田島さんはヘルパーとして住み込んだだけなんだから。 お父さんだったらいきなり遺産相続させちゃう? そんなはずないよ」
「年取って気が弱くなると、そういうこともあるんだよ」
父はいかにもわかったように答えた。 そして空中に視線を泳がせた。
「ふーん、小田島っていうのか」
保は身構えた。
「言っとくけど、勝手に調べさせようなんてしないでくれよ。 オレの付き合いを引っかき回さないでくれ」
父はあわてて手を上げた。
「いや、そんなことはしない。 怒るなって」
それまで黙っていた斉が、両腕を曲げて首の後ろに当てると、椅子の後ろ足で漕ぎはじめた。
「保ちゃん、すぐ本気になりすぎ」
「マジでいい子なんだよ」
保は鋭く言い返し、ちょっと言い過ぎたかと語気を穏やかにした。
「ともかく、逢えばわかるって」
「すぐ連れてきてくれるのは、お母さんとしては嬉しいな」
母はにこにこした。
「好きな食べ物は何だろ。 歓迎してあげなくちゃ」
保はとまどった。 一緒に食べたのは、まだケーキしかない。
「……今度訊いとくよ」
斉がプッと吹き出して、父親に雑誌で頭を叩かれた。
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