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表紙


17 意外な悲劇



 それから二人は、微笑みながら二秒ほど見詰め合った。 そしてお互いに悟った。 これはただの道案内なんかじゃない。 表向きはどうあれ、初デートだ!


 十五分後、円香と並んでゆっくり歩き、近所に二軒ずつあるコンビニとスーパーや、ファーストフード店、カフェに定食屋、レストラン、うどん屋、ラーメン屋などの飲食店を教えてまわったところで、少し歩き疲れてきた。 円香は真面目にもスマホは出さず、小さな手帳を持ってせっせとメモっていた。 ちらっと見るといわゆる女子高生的丸文字ではなく、読みやすいきれいな字を書いているので、保はますます円香に好感を持った。
「ずっと歩いてたから疲れたでしょう? ずいぶん駅に近くなったから、あのカフェでちょっと休む?」
 それは最近人気のチェーン店だった。 円香は用心深くおしゃれスニーカーを履いてきていたため、まだ元気だったが、保とコーヒーショップに入るのが嬉しく、すぐ賛成した。
 おやつ時で、店はさらっと一杯だった。 でも幸い並ばずにすく入れ、円香はカフェオレとチーズケーキを、保はブレンドコーヒーとチョコケーキを頼んだ。
 ゆったりした座席について、二人はお店案内から離れた話を始めた。 お互いに、相手のことを知りたくてうずうずしていた。
 まず保があっさり尋ねた。
「マドカってかわいい名前だけど、どんな字?」
 すぐに円香は手帳のページに姓名を書いて破り、彼に渡した。
「小田島は思ったとおりだ。 それで円香さんか」
「ジョウヤって上の矢でしょう? おうちの表札見た」
「そう。 前は家族全員の名前を出してたんだけど、ぶっそうかもってことで、五年前からは苗字だけ。 僕はタモツって名前で、字は保護者の保」
 まもってくれるって意味か〜。 円香は彼にふさわしい名前だと思った。 高校のころから付き合った男性は三人いたが、共にいてこんなに落ち着いたふんわかした気分になれたのは初めてだった。
「ご家族は何人?」
「両親と弟一人。 母は女の子が一人は欲しかったってよく言ってる」
「後が全部男の人だからね。 でもきょうだいがいるのはいいな。 私は一人っ子だったから」
 だった、というところに少し引っかかって、保が顔を上げた。
「なんで過去形?」
 円香の胸がチクッと痛んだ。
「親は二人とも亡くなったから」
 保はぎょっとして、深刻な表情になった。
「うわあ、思い出させてごめん」
「いいの、忘れたことないから」
 そうは言っても喉が詰まった。 こういう話は妙に隠さないほうがいい。 円香は思い切って、できるだけ淡々と話した。
「交通事故でね、向こうの車がぶつかってきたの。 父がよけようとしてハンドル切って、電柱にはさまれる形になって。 私だけが助かった」
「ひどいな」
 急に食欲がなくなって、保はフォークを下ろした。






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