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アンコール!  125 意外な手紙



「それはよかった!」
 ハリーが笑いながら近づいてきて、肩越しに手紙を覗きこんだ。 ヘレナがふざけて紙を隠すと、今度は取り上げるふりをした。
「あれ? 僕に読まれて困ることが、何か書いてあるのかな?」
 右手で背後に隠し、左手でハリーの胸を突っぱりながら、ヘレナは答えた。
「女同士の内緒話よ。 見ないで」
 降参、といった感じで両腕を掲げてから、ハリーは上半身を屈めて妻にチュッとキスした。
「でも、うちの勝ちだな。 結婚したのは向こうが早かったが、子供はこっちが先だ」
「それって自慢できること?」
「当然だよ」
 ハリーは恥ずかしげもなく言い放ち、胴と腰回りがあまり変わらなくなったヘレナを抱え、どっかりベッドに座り込んで膝に乗せた。
「実はもう一通、意外なところから来てる」
 そして、室内着のポケットから立派な紋章入りの封筒を出して、妻に渡した。
 ヘレナは抱きかかえられたまま、新しい手紙を手に取った。
「マーガレット・ホイットリー? 初めて聞く名前だわ」
「ウィンドメア侯爵のお嬢さんだよ。 つまり君の叔母さんだ。 デラウェア伯爵ジョン・ホイットリーと結婚している」
「ひょっとしてメグ叔母さま?」
 ヘレナはハッとなった。 父が一度話してくれたことがある。 メグ(マーガレットの愛称)は人見知りでとてもおとなしかったと。 姪のヘレナに顔が似ているが、引っ込み思案なので影が薄かったそうだ。
「とても静かな方だと父が言っていたわ」
 その人が、わざわざヘレナに手紙を書いてきた。 侯爵とは離れたままでいようと決めたヘレナだったが、この手紙は読むべきだと心の声がした。
 封を切ったとたん、ひらひらと何かが舞い落ちた。 ヘレナより先にハリーが腕を伸ばして、ベッドシーツの上に載った紙を回収した。
 それは上質な羊皮紙だが、黄ばんでいた。 ずいぶん前に作られたもののようだ。 折ったまま渡されたヘレナが開いてみると、子供っぽい筆遣いで金髪の少女の絵が描かれていた。 その下に丸っこい字が一行、
『いつも守ってあげる。 君の兄デイヴ』
とあった。
 デイヴ。 デヴィッド・ウォルター・マースデン・ギルフォード。 それはヘレナの父親の名前だった。






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