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81 結婚の準備
ジョナス・アレンバーグが非業の死をとげた知らせは、すぐトマスの元にも届いた。
ハリーと同じく、トマスも心からホッとして、夜にもかかわらず、婚約者の隠れ家へ馬を飛ばした。
するとそこには、すでにサイラスの姿があった。 ヴァレリーと二人きりで会いたかったトマスは、内心少しがっかりしたものの、ちょうど三人で話し合ういい機会だと思うことにして、居心地のいい客間に入り、挨拶を交わした。
「こんばんは、ヴァレリー。 そしてダーモットさんも。
連絡をありがとう。 アレンバーグはもう何もできなくなったんですね」
暖炉に近い椅子でワインを口にしていたサイラスは、他人行儀な呼び方をするトマスを見上げて、かすかな笑いを浮かべながら立ち上がった。
「これは伯爵、ちょうどいいところへ。 今この子を安心させてやっていたところですよ」
喜んで近づいてきたヴァレリーと手を握り合い、トマスは想いをこめて微笑みかけた。
「もう心配ないよ。 君に何も起きなくてよかった」
微笑を返しながらも、ヴァレリーはまだ心配そうだった。
「お二人のおかげで私は大丈夫だったけど、ヘレナはどうかしら。 早く会いたいわ」
男二人は、ちらっと視線を交わした。 どちらもヘレナが今どうしているか、ヴァレリーには話していなかった。
ヘレナが姿を消した後、ハリーは二人にそれぞれ連絡を取り、自分がかくまっていて無事だと知らせてきた。 かくまうというのがどういうことなのか、トマスは友達を信じていたが、サイラスのほうは内心危ぶんでいた。
ともかく、純真なヴァレリーにはめったなことは言えない。 サイラスは普段見せない笑顔を作って、孫を安心させようとした。
「どこか安全なところに隠れているんだろう。 わしが手を回して見つけるよ。 式に間に合うようにな。 彼女に出てほしいんだろう?」
「ええ!」
ヴァレリーは泣き笑いの表情になって、手を揉み合わせた。
「一番の友達ですもの。 故郷にも、あんなに気の合う人はいなかったわ」
「悩まんでいい。 おまえは式に集中しなさい。 必要な物はどんどん買って」
そこで、さすがのサイラスも当惑した。
「考えてみると、おまえには力になってくれる年上の婦人がいないな。 わしは質屋だから、宝石の質やドレスの材料には目がきくが、花嫁に何が必要かについては、まったくわからんし」
トマスはあまり気にしていなかった。 セント・ジョージ教会のようなきらびやかな会場で、沢山の客を招いて行なう婚礼ではないのだから、ちゃんとした服であれば何を着ていたってかまわないじゃないかと考えていた。
「ヴァレリーは、どんな服装でも、そこにいるだけで綺麗ですから」
この発言は、ちょっと無神経じゃないかと、サイラスでさえ思った。
「ですが伯爵、この子にとっては一生一度の結婚式ですよ。 いくらあわただしくても、思い出に残るものにしたいのは当然でしょう」
「確かに、それはそうですが」
気を取り直したヴァレリーが、トマスの腕に手をかけて言った。
「ともかく、座りましょう。 バーミンガムで学校友達の式に付き添い娘で出たことがあって、必要なものはわかっています。 自分の手で好きな服をそろえられるなんて、夢のようだわ。 後はヘレナが来てくれれば、もう言うことなしです」
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