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74 夕刻の奇襲
たとえ悪事であろうとも、うまくやり遂げるには焦りは禁物。
だが、追い詰められたジョナスは、先を考えるゆとりはなかった。 これまで文句たらたらでも金だけは都合してくれた親から、突然言い渡されたのだ。 おまえの悪評のせいで縁談がなかなかまとまらなかった妹が、やっと相手を見つけた。 その代わり持参金が目の飛び出るような金額になったので、もう仕送りはできない、と。
ジョナスは唾を飛ばして反論し、乞い願い、終いには父を脅しさえした。 すると父は容赦なく、従僕を二人呼んで彼を放り出した。
もう送金は望めない。 少なくとも、すぐには。
だから、自力で明後日までに金を作らなければならなくなった。 せめて入金の当てがあることを、冷酷な借金取りに示して信じさせないと、本当にテムズ川にぷかぷか浮かぶ破目になる。
「同室の友達のほうがやばいんなら、じかに行くしかねぇな。 おいお前、拳銃を二丁仕入れてこい」
手先のマイキーに札を渡しながら、凄みを効かせた。
「道中だれかが俺のことを訊いてきても、しゃべるんじゃねえよ。 裏切ったらどこまでも追いかけて、首かっ切って殺してやるからな」
「やめてくれ、兄貴」
すっかり顔色を無くしたマイキーが、早足で去った後、ジョナスは怒りと不安をもてあまして、また部屋をぐるぐると歩き回った。
その日の夕方、身を切るような寒風の中、ハムデン子爵ハリーは馬を飛ばして、ロンドンの屋敷にひとまず帰ってきた。
本心はいつまでも郊外にいたかった。 ハンフリーズ氏になっている間は、四六時中くつろいでいられる。 厳選した雇い人たちは皆忠実で、しかも口が固かった。
おまけに今、あそこにはヘレナがいる……。
やっと彼女を守れるようになったと思うと、空虚な心が半ば満たされた気になった。 あくまでも半分だけだが。
元気な若馬マックスは、馬車で行く半分の時間でハリーをロンドンへ連れ帰ってくれた。 軽々と飛び降りて、愛馬の首を撫でてやっていると、主人が戻ったのを知って馬丁たちが急いで出てきた。
マックスを引いていく彼らに一瞥〔いちべつ〕をくれた後、ハリーは顔を覆ったマフラーを下げて、玄関階段をゆっくり上がった。
一番上の段に足をかけたとき、気配を感じた。
特別な音はしなかったし、空気も動かなかった。 ただ、強い悪意が迫ってきた。 手で掴めるほどはっきりと。
考えるより早く、ハリーは体を斜めに倒し、右手の植え込みに飛び込んだ。 同時に焼けるように熱いものが耳をかすめて、鈍い爆発音を響かせながら、玄関の分厚い板に食い込んだ。
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