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アンコール!  70 肝心な話題




 ヴァレリーは、サイラスの言ったことをしばらく考えていた。
 それから、つぶらな瞳を上げて、いかめしい祖父の顔に自分と似ているところを探した。
「私達、目が似ているわね?」
「おまえのほうが、ずっと綺麗だ」
「母の目も同じ色だったわ」
 それからヴァレリーは、自発的に語り出した。
「父のウォルター・コックスは、小さな教会の牧師だったの。 貧しかったけど、もっと困っている人をずいぶん助けていたわ。 だから亡くなった後、葬式には沢山の人が来てくれた。
 でも、みんな知ってるように、牧師が死んだらすぐに後任が来るの。 だから私は住むところがなくなってしまった。 引き取ってくれると言った人には下心があったし、親戚はリスベスおばさんだけで……」
 言葉が途切れた。 サイラスはナプキンで口を押さえると、はっきり言った。
「あの女がアメリカへ移住していて、よかった。 年上の夫が世を去ってからは、派手に遊び暮らしていたそうだからな。
 遺産を使い果たして、しまいには借金で首が回らなくなっていたという話も聞いた。 おまえが訪ねていっても、受け入れたかどうか。 たとえいやいや引き取ったとしても、こき使われるだけだっただろう」
 それを聞いて、ヴァレリーは思わず身震いした。 ヘレナとトマスたちが親切にしてくれなかったら、危ないところだったのだ。
「私は本当に運が良かったのね。 ヘレナたちに逢えて」
「あの娘は福の神だな」
と、サイラスは呟いた。
「わしとどうやって知り合ったか、ヘレナは話したかい?」
「いいえ」
 その点を、ヴァレリーは前から不思議に思っていたのだった。
「大事な用事があって、夜中に出歩いていたんだ。 そのとき強盗に追われて、頭を殴られた。 通りかかった劇場帰りのヘレナが、手提げから小さな拳銃を出して、助けてくれたんだ」
「凄いわ!」
 ヴァレリーは、ただもうびっくりするばかりだった。
「ヘレナは本当に度胸があるの。 自分のことはほとんど話してくれないけど、きっと苦労してきたにちがいないわ」
「彼女はおまえのことも助けてくれた」
 考え込みながら、サイラスは孫娘を愛しそうに眺めた。
「ヘレナがいなかったら、わしは死ぬまで、おまえがこの世にいることさえ知らないままだったにちがいない」
「ヘレナこそ、誰よりも幸せになるべき人よ」
 ヴァレリーは心から、そう言いきった。
「ヨナス・アレンバーグがつくづく憎らしいわ」
「わしもだ」
 太い眉毛を寄せて、サイラスは呟いた。
「見ていなさい。 奴にはヘレナに近寄ったことを必ず後悔させてやるから」









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