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30 四人で食事
短くなってきた秋の日の太陽が赤みを帯び、ゆっくり高度を下げてきた頃、四人は心地よく疲れた足を、ガーデンの芝居小屋近くにあるレストランに向けた。
ヘレナは慣れたもので、ハリーがいくつかメニューを読み上げた中から、好みに合ったものを選んだ。
ヴァレリーは最初、まごついていた。 その様子に気づいたヘレナが、さりげなく誘導した。
「一緒のにしない? 私達、食べ物の好みが似ているから」
「そうね」
間髪を入れず、ヴァレリーは目を活き活きさせて答えた。 知らない料理の名前ばかり並べられて、相当困っていたらしい。
食事の間、ハリーはご機嫌で、プッと笑える小話を次々並べては、女性たちを楽しませた。
トマスは相変わらず無口だった。 だが気分はいいらしく、流れるように食べながら、ときどきハリーの言葉に口元をゆるめていた。
そのうち、ハリーがしびれを切らして、友に呼びかけた。
「おい、少しは会話に入れよ。 おまえにも楽しい午後だったんだろう?」
フォークを置くと、トマスは考え込む表情になった。
「ああ、確かに」
「おまえが遊興場に来るなんて珍しいよな」
ハリーは遠慮なく付け加えた。
「いくら遊び方を知らないったって、誘ったのはこっちだぞ。 お嬢さん方の気持ちも考えないと」
冗談めかした口調だが、ハリーの目は笑っていなかった。
そこでヘレナは少し心配になった。 トマスは直情径行型だ。 さっき前置きなしにウェイヴァリーを殴り倒したのでわかった。 ハリーとは親友らしいが、無遠慮に注意されて切れ、ここでいきなり喧嘩を始められたら……。
「あら、お二人には充分よくしていただいてるわ。 ねえ、ヴァレリー?」
食後にハリーがアイスクリームを注文してくれたので、期待して待っているヴァレリーは、そわそわしながらうなずいた。
「ええ本当に。 それで、逃げて木に登ったお猿さんはどうなったの?」
ハリーの小話の続きが気になるらしい。 彼はすぐ話に戻った。
「昼間は浮かれて飛び回っていたが、日が落ちて寒くなると、震えあがって自分から降りてきた」
「賢いわ」
食べ終わった皿を前に肘をついて、ヴァレリーはつぶやいた。
「降りてきたら助けてもらえるって、ちゃんと知ってる」
「猿は利口だから」
ようやくトマスが話に入った。
「人の気持ちをすばやく見抜くんだ」
「飼ったこと、あるの?」
ヘレナが尋ねると、トマスはまばたきした。
「僕自身はない。 ただ、仕事仲間がこれぐらいの」
と、手で大きさを示してみせて、
「頭の尖った小さな猿を、いつも連れ歩いていたんだ」
ずいぶん変わった仕事仲間だ、とヘレナは思った。
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