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29 競争の結果
気球は揺れたり、横に流されたりしながら、のんびりとゴールを目指した。
それにつれて、人々の群れも移動した。 広いと言ってもテムズ川の近くだから、長距離レースはできない。 やがて三台の気球は、忙しく動き回る操縦者の手で少しずつしぼみ、草地を目指して降りてきた。
幸い、途中で事故を起こしたものはなかった。 ただ、着地するときにバランスを崩して、籠を地面に引きずった気球が一つあった。
ヘレナとヴァレリーが応援した二色模様の気球は、ハリーが賭けた緑の気球と激しく先頭争いを演じたあげく、ほんの数フィートの差で勝利を収めた。
大喜びの娘たちに、ハリーはいさぎよく五ポンドずつ渡した。 ヘレナはともかく、ヴァレリーはきょとんとなった。
「え? これ何のお金?」
「さっき賭けをしたんだ。 聞いてなかった?」
「知らなかったわ。 気球を見るのに夢中で」
賭けるものは決めていなかったはずだ。 お札を折ってバッグに入れながら、ヘレナは尋ねた。
「もし緑の気球が一番だったら、どうするつもりだったの?」
ハリーは笑みで目を細くして、ヘレナを眺めた。
「そうだな〜、今度また四人で遊びに行く許しをもらう、かな」
札を手に持ったまま、ヴァレリーが静かに言った。
「嬉しいけれど、もう当分私達の休みは重ならないと思うわ」
「そうね、二人とも貧乏暇なしだし」
と、ヘレナも同調した。 都会の誘惑をほとんど知らないヴァレリーが、二人の青年紳士にちやほやされて有頂天にならないかと心配していたが、どうやら考えたよりずっとしっかりしているようで、ほっとした気持ちになった。
しかし驚いたことに、あっさり引いたハリーではなく、無口なトマスのほうが押してきた。
「だったらヘレナさんの舞台が終わった後、みんなで食事に行こう。 時間は少し遅くなるが、必ず下宿まできちんと送り届けるから」
食事をおごらせるのは、ヘレナの得意技だ。 彼女は、危険でない男を見分けるのが実にうまい。
だが今回は迷った。 この二人は一体、何を求めているのだろう。
どっちも気の長い性質で、じっくり娘たちを誘惑しようと考えているのか。 それとも、傍にいると楽しいから、それだけのために気楽に誘っているのか。
考えていると、誰かの視線を感じた。
顔を上げたヘレナは、ハリーの茶色の瞳と目を合わせることになった。 その瞳にはいつものユーモアはなく、真剣に何かを探る強い力をたたえていた。
ヘレナに見られた、と悟ったとたん、ハリーはパッと探索を止め、普段の呑気な表情に戻った。 まるで魔法のように、一瞬のうちに。
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