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27 割り込み男
心地よく踊り疲れると、四人は腕を組んで東屋を離れ、レモネードとワインで喉の乾きをいやした。
花綱を飾った喫茶室のテラスでくつろぎながら、通る人たちを見渡していると、中の一人がふと立ち止まり、身軽な動きで近づいてきた。
「やあ、ハムデン。 それにラルストン」
ハリーは気だるい笑顔で迎え、トマスは表情を硬くした。
ハリーがのんびりと挨拶に応えた。
「よう、ウェイヴァリー。 単独行か?」
「いや、実は違うんだが。 姉の付き添いで無理やり連れてこられたのに、彼女どこかに消えちゃって」
別に探すそぶりも見せず、ウェイヴァリーと呼ばれた青年は四人に近づくと、愛想よくヘレナとヴァレリーに一礼した。
「こんにちは、お嬢さん方」
女性二人も会釈を返した。 ヘレナはにこやかに、ヴァレリーは遠慮がちに。
模様つきのチョッキに明るい青の上着、ベージュのズボンという粋ないでたちのウェイヴァリーが、きれいな娘二人に代わる代わる視線を走らせるのを見て、ハリーは軽く唇をねじ曲げた。
「お姉さんを見つけに行かないのか?」
ウェイヴァリーは上の空で答えた。
「いる場所の見当はついている。 小劇場でバレーを見ているのさ」
彼がわざとらしく肩を震わせるので、男たちはくすくす笑った。
「バレーか。 長く座っていたい場所じゃないな」
すかさずウェイヴァリーはハリーの言葉尻を捕らえて、いそいそと空いていた椅子を引いてきた。
「だろう? ここの方が爽やかだし、眺めもずっといい。 座っていいですか?」
最後の言葉は、一番近くにいたヘレナに向けたものだった。
ヘレナは軽く首を傾けて、淡々と言った。
「どうぞ」
それから話しているうちに、ウェイヴァリーは男爵の息子だとわかった。
「今はただのサー・ウェイヴァリーです」
「私はただのミス・コール。 よろしく」
ヘレナの手を取ったウェイヴァリーが、なかなか離さないでいると、ハリーではなくトマスから声が飛んだ。
「おい、その人の手は酒瓶じゃないぞ」
ウェイヴァリーはむっとした。
「今日は酔ってない」
「今日はな」
やっと離してくれた手を、ヘレナはそっと引っ込めて、スカートの脇で目立たないように拭った。 ウェイヴァリーの手はじっとりと汗ばんでいたのだ。
そのとき、遠くから歓声が上がった。 一同が騒がしい方角を振り返ると、ちょうど気球が空に上がっていくところだった。
「まあ、三つも! 見に行きましょうよ」
珍しくヴァレリーが、興奮した口調でせきたてた。 生まれて初めて本物の気球というものを見たからだ。 絵本では目にしたことがあったが。
三人の男性の間に緊張感があって、気詰まりになりかけていたヘレナも、すぐに賛成した。
「競争してるみたいね。 私は赤と青のが一番になると思うわ」
「じゃ、僕は緑の縞のやつに賭けよう」
ハリーがそう言って、ぱっと立ち上がった。
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