表紙目次文頭前頁次頁
表紙

アンコール!  25 親切な理由




 連れ立ってもう少し行くと、人形劇の屋台が出ていた。 昼間なので、子供向けの催しも盛んだ。 近くにある広場の向かい側では、菱形模様の服を着た道化師が、ハンカチと花束を使って、なかなか見事な手品を見せていた。
 四人は人形劇の小さな舞台の前で足を止め、白馬の騎士と金髪の姫に、黒髪の魔女や悪魔がからむ芝居をしばらく見物した。
 前の座席は背の低い子供たちが占領している。 その後ろには、親や子守たちが腰を降ろして、笑いさざめいたり息を呑んだりしていた。
 残り少ない座席を女性陣に譲った男二人は、傍にある木に左右から寄りかかり、のんびりと人形の入れ替わりを眺めた。
「次はどうする?」
 ハリーが小声で友達に尋ねた。 目を舞台に据えたまま、トマスは短く答えた。
「わからん。 おまえに訊こうと思ってた」
「おいおい」
 ハリーは目をむいたが、トマスはかまわず続けた。
「ここに来たのは初めてなんだ」
「参ったなぁ、そこまで堅物なのか」
「遊び慣れたおまえが頼りだ」
「口説くぐらい、自分でしろよ」
 そこでハリーは幹から体を起こし、真面目に尋ねた。
「そもそも、なんで彼女たちを誘おうなんて気になった?」
 トマスの視線が地面に落ちた。 それから、ぐいっとハリーの腕を取り、太い幹の裏側に連れこんだ。
「彼女たちが火傷したのは、俺のせいだから」
 ハリーは顎を引き、鋭い目で友を見つめた。
「どういう意味だ?」
「つまり……」
 トマスの口が重くなった。
「劇場で久しぶりにフィービーに会ったせいだ。 相変わらず自信たっぷりで、俺を罠にかけたことなんか全然気にしていなかった。 憎たらしくて」
「それで、何した?」
「つい、皮肉を言ったんだ。 舞台の端に並んでいた金髪娘をあてずっぽうに指さして、あの子のほうが綺麗で若い、と言ってしまった」
 ハリーは鋭く息を吸い込み、何か言おうとしたが、途中で気を変えて、低く尋ねた。
「じゃ、フィービーがあの子たちに酸をかけさせたというんだな?」
「まず間違いない。 馬鹿にされると我慢できない女だ。 それに執念深い」
「最悪じゃないか」
「うん……。 ひどい怪我にならなくて、よかった」
「待てよ」
 ハリーは首をひねった。
「実際にかけられたのはヘレナ嬢じゃないぞ」
「ヴァレリーさんはたまたま道にいて、間違われたんだろう。 暗かったから、茶色の髪と金髪の見分けがつきにくかったんだ」
「あ」
 思い当たったらしく、ハリーの声が高くなった。
「それでだな。 あのとき、おまえがそわそわして、楽屋口に行きたがったのは。 悪い予感がしたんだろう?」
「実はそうだ」
「やれやれ」
 ハリーは不満げにつぶやいた。
「だったら、二ポンド三シリングのペンダントでごまかすなって。 もっと立派な償いをしてやれよ」







表紙 目次 前頁 次頁
背景:kigen
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送