ダーネベルイの小さな店 5
十二月の半ば、ヨハネスは何回か牧師館へ行き、道の雪かきをした。 高齢のベルイマン牧師と、似たり寄ったりの年ごろの家政婦しかいない家なので、この奉仕は非常に感謝された。
四度目の雪かきと、ついでに裏庭の雪室の屋根直しもやった後で、ヨハネスは頃合いを見て、ベルイマンに切り出した。
「牧師様、町のお金持ちで、子供が大きくなって要らなくなった本を教会に寄付する人がいるそうですが」
革紐で耳にくくった眼鏡をずり下げて、ベルイマンは自分の背丈を追い越してしまった少年を眺めた。
「それが、どうかしたかね?」
ヨハネスはためらった。 当時、本は高価で、なかなか手に入りにくいものだったのだ。
「あの、表紙が取れちゃってボロになった本とか、ありませんか? もしあったら、勉強に使いたいんです」
遠慮がちに言われた申し出を、牧師は向学心の現れと受け取って、感心した。
「そうか、読み書きをもっとやりたいわけだね。 なかなかよろしい。 それじゃ、二、三日後においで。 探しておいてあげよう」
「ありがとうございます!」
これでせっせと雪かきに通った苦労が報われる。 ヨハネスの顔がぱっと明るくなった。
クリスマス・イヴはいつも通りどんよりと暗く、正午近くに空がいくらか白むぐらいで、ほほ一日中がたそがれだった。 それでも長い毛皮を着たクリスマスの神が目抜き通りを練り歩き、ひいらぎの枝で、いたずらを仕掛ける子供たちを叩いて回ったりして、人々は束の間の休みを精一杯楽しんだ。
夕方、ヨハネスは小さな薪小屋から取り出した包みを上着の下に隠して、パンケーキと肉汁のうまそうな匂いがただよう裏口からそっと入った。
狭い木のテーブルに、皆が勢ぞろいしていた。 と言っても、父のグンナール、叔母のカーリン、それに養女のインゲの三人だけだったが。
ヨハネスが急いで座ると、まず一同は頭を垂れて、神に祈った。 それから父が、ナイフを手にして立ち上がり、厳かに鵞鳥の丸焼きを切り分けた。
年に一度の大ご馳走の夜だった。 外は吹雪だが、家の中は温かく、料理上手なカーリンのおかげで去年とは比べ物にならないほど豪華な食卓となって、いつもほとんど笑わないグンナールでさえにこにこしていた。
長い時間をかけた食事が終わると、インゲが皿を片づけ、カーリンはせかせかと棚に行って、何やら引っぱり出してきた。
「はい、グンナール」
それは、真新しい鹿のなめし皮だった。 上等な鹿皮はめったに手に入らない。 驚くグンナールに、カーリンはうれしそうだった。
「港にね、幼なじみのマリアって人がいて、旦那さんが船員なの。 この皮は東洋から運んできた商品の一部なんだけど、大きさが半端で、ベストが作れないんですって。
でもほら、子供の靴なら作れる大きさでしょう? だから安く貰ってきたの。 どう?」
「うん」
咳払いをして、グンナールはうなずいた。 表情は変わらなかったが、喜んでいるのが、皮を撫でる手つきに表れていた。
一方、ヨハネスは手を真っ赤にして皿を洗っているインゲに近づいた。 そして、わざと無造作に、背中を本の角でつついた。
「何よ、痛いわね」
すばやく振り向いて、濡れた手でヨハネスを叩こうとしたインゲの動きが、すっと止まった。 その眼は、牧師館の時計ぐらい大きくなって、差し出されたままの本に釘付けとなった。
「まあ……」
「牧師さんがくれた。 ちょっと汚いけど、充分読める。 挿絵もかわいいし……」
どっと抱きつかれて、言葉が途切れた。 続いて、ヨハネスは頬に、そこだけ春のような熱い息吹を感じた。
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