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ダーネベルイの小さな店 3
翌朝、カーリン叔母がせかせかとやってきた。 カーリンはいつも急いでいる。 あれをやらなくちゃ、とか、これは終わった? とか、ひっきりなしに言ってくるので、ヨハネスはどちらかというと苦手だった。
気の強いインゲが反発するのではないかと、ヨハネスは心配していた。 だが、いざカーリンが仕事を始めると、まるで違った様子になった。
朝の湯沸しのとき、まずホダ木に火をつけて竈〔かまど〕にスープ鍋をかけるのだが、最初の日、カーリンは布巾を点検したりナイフの数を数えたりしながら、ひっきりなしに火のそばへ戻ってきては、神経質に、
「まだぬるいわ。 火加減が弱いのかしら」
と呟き続け、せっせと薪を運びこんでいたヨハネスは、終いには、いいかげんにしてくれ! と怒鳴りそうになった。
そのとき、皿を並べていたインゲが明るい口調で言った。
「私が見てます。 沸騰したらすぐ知らせるから、安心しててくださいね」
エプロンで手を念入りにぬぐっていたカーリンは、はっとしたように新米の娘を眺め、亀のように首をすくめて、また食器棚の整理をやり出した。
間もなく、鍋の湯が軽快な音を立てて沸騰しはじめた。 すかさずインゲが叫んだ。
「お湯があったまりましたよ!」
あわててカーリンが走ってきて、カブを切り始めた。 インゲはさりげなく薪をくべ、ナイフを取り出して並べたが、その間もカーリンの手元を見て、料理の仕方を頭に入れていた。
運んできた薪を暖炉の横に積み重ねて、ちらっと見ると、たまたまインゲもヨハネスを眺めていて、目が合ったとたんに舌を出してみせた。
ヨハネスも負けじと顔をねじ曲げて、しかめっ面を返した。 インゲの眼が愉快そうにきらめいた。
昼すぎにヨハネスが学校から帰ると、インゲはすっかりカーリンと仲よくなっていて、揺り椅子に座って冬用の手袋を編むカーリンの横で、毛糸の玉巻きをせっせと手伝っていた。
「もうちょっと斜めに手を動かして。 そうそう。 糸繰り車より楽ね」
毛糸の束を両手にかけ、巻きやすいように腕を動かしながら、インゲは微笑んだ。
「編物って難しそう」
「そんなことはないわ。 やったことないの?」
「ええ」
残念そうに、インゲは答えた。 カーリンは少しためらったのち、小声で提案した。
「教えたげましょうか」
「え? ほんとに?」
金色の睫毛に囲まれた灰緑色の眼が、心から嬉しそうに輝いた。 どうやら編物を習いたいという情熱は本物らしかった。
グンナールは表の店で靴を作っていた。 型を取った通りに皮を切り、目打ちで穴を開けて丁寧に縫っていく。 根気と力に加えて器用さも必要な作業で、グンナールの指先は荒れて変形していた。
奥の台所から笑い声が響いてきた。 五年ぶりに聞く、女の楽しげな声だ。 手を休めて、扉の向こうの団欒に聞き入った後、グンナールはまた黙々と作業にかかった。 そのいかつい顔には、昨日までなかった柔らかい表情が浮かんでいた。
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