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-52- 彼の真意は
クロエはぼんやりした状態で、手をもみ合わせながら舞踏室に戻った。
すると、友達の一人ヴェルデンヌ夫人と共に広い部屋を歩き回っていた伯母が、すぐクロエを見つけて扇子を高く振った。
「こっち! こっちよ! いったい何してたの?」
急いで人々を掻き分け、ブランソー夫人の元へ駆け寄った後、クロエも負けずに伯母に言い返した。
「伯母様こそどちらへ? 心配でずっと探していたんですよ」
憤慨していたブランソー夫人の顔が、すぐ和らいだ。
「あらそう? ポーリーヌが新しく買った首飾りを見せてくれるというもので、あっちの部屋に行っていたの」
不満をグッと飲み込むと、クロエは元気一杯の伯母に従って、馬車止まりのある前庭に向かった。
帰りの馬車の中で、クロエは自分を持て余していた。 希望と不安が交互に押し寄せ、息をするのも苦しい。
リオネルは本気で後悔しているようだった。 だからきっと、あの手紙にも冷たい言葉は書かれていないだろう。 でも、読むのはやはり怖かった。 ずっとタブーにして触れないできただけに、あれを開くと思っただけでも動悸が激しくなった。
しかも、屋敷に帰り着いてからの伯母は、いつもより興奮していて、クロエを引き止めて半時間もしゃべりまくった。 舞踏会で居眠りばかりしていたから、休息充分だったのかもしれない。
たいていは友達から聞いた自慢と新たなゴシップだった。 だがその中に、クロエの注意を強く引く話が一つ挟まれていた。
「……将来有望といえば、カステルシャルムの息子は前から期待されていたの。 異国から戻ってみれば、確かに見栄えのする坊やだったわね。 でも運がいま一つで。
ねえ、いつかあなたに話した令嬢のこと、覚えている? 恋に破れて屋上から身投げした人のこと」
「はい」
クロエは胸がつぶれそうになりながら、低く答えた。 もしかして、リオネルはその令嬢に恋していたのだろうか……。
伯母は大きく息をついてから、続きを言い終えた。
「彼女の名はカミーユ・ド・カステルシャルム。 現カステルシャルム侯の妹だったの」
さんざん話した後、静かになったので顔を覗くと、伯母は一瞬で眠りに落ちていた。 ほっとしたクロエは後を小間使いに任せ、疲れて痛む足をできるだけ急がせて自分の寝室に上がった。
しっかり扉を閉め切った後、中から錠前までかけた。 それから引き出しを開け、着替えもせずに日記帳を取り出すと、壁の燭台に近づいて、挟んだ手紙を手に取った。
ずっと胸が震えていた。 そして指先も。
教会で会ったとき、彼がなぜ密会をたしなめようとしたか、ようやく理由がわかった。 よく知らない相手にのめりこんで自滅した哀れな妹のような目に、クロエを遭わせたくなかったのだ。
取り出した手紙を、いったん胸に押し当てた後、クロエは勇気を奮ってゆっくりと、紙を開き始めた。
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