表紙

 -45- 再びパリへ




 クロエはもちろん、兄が隣の幼なじみと結ばれるのを喜んだ。
 同時に、これからは自分の立場が弱くなるのもわかっていた。 貴族の娘は、のんきな行かず後家になるのは許されない。 何がなんでも夫を選ぶか、それに失敗したら、どこかの由緒ある尼僧院の幹部を目指す。 嫌がっても無理に送り込まれる。
 ごくたまに、田舎の本家の管理を任される令嬢もいたが、それは屋敷の主人が妻を迎えるまでの短い期間だ。 奥方ができれば、小さな離れか町屋敷に追い払われるのが普通だった。


 家長のデグリュー侯爵がパリに使者を出して、長男のめでたい婚約を知らせると、ブランソー夫人から折り返し返事が来た。
 わりと長い手紙をじっくり読んだ後、侯爵は一人娘を自室に呼んで、話を始めた。
「おまえがパリで辛い思いをしたのは、よくわかっている。 戻ってきたときも言ったが、若い男というのは、ときどきとんでもなくバカな真似をするものなのだ。 元気が余って暴発するのだな」
 そこで大きく嘆息してから、侯爵は本題に入った。
「あれからもう二年近く過ぎた。 早いものだ。
 そしておまえは十八になった。 花の盛りといってよかろう。 親の欲目でも、確かに十六のときより美しいと思うぞ」
 次に言われる言葉はもうわかっている。 覚悟を決めて、クロエはまっすぐ父親の目を見返した。
 少し話しにくそうに、侯爵は二度、咳払いした。
「月日が経つのは早い。 そろそろおまえも悲しみを振り切って、婿を選ばなければならん。 わかっているな」
 さすがに即答はできない。 クロエは視線を落とし、呟くように言った。
「なかなか気持ちの整理がつきません」
「そうらしいな。 始終野山をさすらっていると聞いた。 考え事をしているのだろう?」
「はい」
 それと、考えなくてすむように体を疲れさせているのだ。 クロエは悩みたくなかった。 もともと陽気で割り切りのいい性格で、うじうじするのは性に合わない。
 だが、再びパリに戻りたくもなかった。 あのごちゃごちゃした都会には、辛い思い出が多すぎる。 クロエは思い切って父に訊いてみた。
「あの、ランスかアミアンに行かせてもらえませんか? どちらも大きな町で、催し物が多いとか」
「なんの! 社交の季節は、やはりパリだ。 大貴族の子弟がみんな集まる。 それに何より、気心の知れた後見人がいるではないか。 ジョゼット(ブランソー夫人)が張り切って、屋敷を改造して待っているそうだぞ」











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