表紙

 -28- 奇妙な反応




 芝居は大受けで終盤を迎え、アンコールが二回もあった。
 間もなく素人俳優たちが衣装を着替え、化粧を落として現われると、再び派手な歓迎を受けた。 人々は笑いさざめきながら、てんでに酒や菓子を手に取り、芝居の劇評やら最新の噂話の花を咲かせた。


 クロエも伯母の傍らで、年配の夫人たちが交わす話をおとなしく聞いていた。
 初めはどうということはなかった。 だが五分もすると、周囲の様子がいつもとは少し違うことに気付き出した。
 通り過ぎる人たちの視線が、ひんぱんに顔に当たる。 好奇心に満ちた眼差しがあるかと思えば、ちらっと盗み見るようにして去っていく目もあった。 また、離れたところから眺めて、噂し合っている組もいた。
 冷たい見方ではなかった。 女たちは一様に驚いた様子だし、一方男たちはむしろ感心したような態度を示していた。
 それでも、密かな注目の的になったクロエは、落ち着きを失った。
──いったい何で私なんかを見ているんだろう。 今日は舞踏会じゃないから、地味な服を着て来ているし、いつも以上に静かにして、こうやって伯母様の隣に立っているだけなのに──


 伯母のブランソー夫人がようやく噂に堪能して、姪を振り返った。 そこでクロエは思い切って小声で尋ねてみた。
「ねえ伯母様、さっきからいろんな人が私を見ているようなんです」
 ブランソー夫人は、扇子を広げ、あおぐふりをしながら、さりげなく周囲を見渡した。
「そうね……確かにあなたに注目しているようだわ」
「でも私、何もした覚えがないんですけど」
 夫人は一つ溜息をつき、姪に不可思議な視線をそそいだ。
「全然思い当たらないの?」
 クロエは力を入れて答えた。
「まったく!」
「そう」
 あおぐ扇の速度が落ちた。 温かみのある夫人の鳶色の瞳が、ゆっくりサンジェラール邸の豪華な応接間をさまよった。
「心配することはないわ。 今のまま、素直にしていらっしゃい。 そのうち、きっといいことが待っているから」
「でも……」
 納得のいかないクロエが、すがるように伯母の顔を見つめると、夫人はかすかに微笑んだ。
「実体のない噂は、すぐに消えていくものよ。 あなたには何の落ち度もないんだから、普通にしているだけでいいの」











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