表紙

 -18- また逢える




 気さくな金髪娘の名前は、レオニー・ドラクロワといい、男爵の次女だった。
 レオニーの紹介で、次の舞踏会のとき、クロエはアデルと知り合いになった。 クロエがディアヌの言葉に傷ついて逃げ出した後で庇ってくれたという令嬢だ。 彼女はカラン侯爵の長女で、見かけは少し地味だが、落ち着いていて誠実な印象だった。


 こうしてクロエには、有力な友人が二人できた。 誘ったり誘われたりで仲間の輪も増え、順調すぎるほどの社交界デビューとなった。
 毎日が楽しく、時間が飛ぶように過ぎていった。 それでもクロエの意識から、あの従僕の思い出が消え去ることはなかった。 街路や散歩道で黒い服を着た背の高い男性を見かけると、いつも視線を据える。 正面からだと違いがすぐわかって関心を失うけれど、後ろ向きだとしばらく見つめて、振り返らないかと願った。


 結局、パリに来て一ヶ月目になろうというこの日まで、クロエは彼を発見できなかった。 だから、再びクリュニー男爵夫人の主催する夜会へ行けるとわかったとき、あまりの嬉しさに、珍しく伯母で後見人のブランソー夫人におねだりした。
「ねえ伯母様、作っていただいたドレスは全部、二度以上着てしまいましたわ。 みんな素敵な服ですけれど、そろそろ新しいものをあと一着か二着仕立てられたら嬉しいんですが」
 夫人はちっとも驚かなかった。 むしろ、流行を追わないこの子がやっとパリの環境になじんだと思い、もっとけしかけて派手にしてやろうと決めた。
「ほんとにその通りだわ。 すぐ行きたいところだけど、あいにく小雨で湿気がひどくて、膝が痛むの。 だからマダムのほうから来てもらいましょう。 流行の服地を山のように持ってね!」


 仕立て屋のマダム・バダンテールは、その日の午後にすぐやって来た。 雨にも負けず、蝋引きの防水布にくるんだ反物を、下男の手を借りて次々と運び込む。 その束を奥の広間で開くごとに、虹のような色とりどりの生地が姿を現して、クロエは心ゆくまで布選びを楽しんだ。
 夕方までかかって、クロエは三着分の布を買い、デザインを決め、最初の仮縫いを済ませた。
 ブランソー夫人も便乗して、ワインカラーのドレスと揃いのショールを注文した。 格式のある伯爵の未亡人としては、姪に釣り合う立派な服をまとわなければならない、というのが、ブランソー夫人の言い分だった。
 だが実際は、おしゃれで有名な友のクリュニー夫人に、ちょっと張り合ってみたかったのかもしれない。




 夜会の夜は、うっすらと雲が出ていた。 ただしパーティーに差し支えるほどではなく、むしろ八時頃に上った十二夜の月がおぼろにかすんで、優雅な宴の雰囲気をいっそう盛り上げていた。
 今宵は国王の王女二人がおいでになるという。 そのためか、先日の会より一段と参加者が多く、服も正装で、玄関から招きいれられたクロエは折り目正しい雰囲気に緊張した。










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