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-6- 華やかな店
街は清潔とは言いがたかったが、高級店の並んでいる辺りでは、さすがに専門の掃除人を雇っていて、馬車と馬の間をぬってはゴミや馬糞を掻き集め、黙々と袋に入れていた。
外とは対照的に、服飾店の中へ一歩入ると、息苦しいほどの香水の匂いが立ちこめていた。 そして笑顔一杯のマダムが濃紺の綾織絹の裾をサラサラいわせながら近づいてきて、ブランソー夫人に頭を下げた。
「いらっしゃいませ、奥方様。 しばらくおいでになりませんでしたね」
「実はね、北の方にこの子を迎えに行っていたの。 私の姪のクロエ・デグリューよ。 社交界に初お目見えするのでね、できるだけ美しく見せたいの」
「それはそれは。 まあ何てお綺麗なお嬢様! こんなに整った弓形の眉と、そよ風が起きるほど長い睫毛をなさって」
とうとうとお世辞を並べながら、マダム・アランは専門家の目でクロエの体つきをじっくり眺め、似合う色と形を頭の中で探した。
いつものようにマダムと夫人の趣味はぴったり合い、その場で空色のローブ・ア・ラ・フランセーズ(公式ドレス)を試着してみることになった。
その服は、ディアヌ・ド・ラ・ファンティーエという令嬢が注文したものだったが、エシェル(胸の飾りリボン)のデザインが気に入らないと文句をつけられて買い上げてもらえず、返品になっていた。
色が肌に合っているか、胸の位置はどのへんか、肩下がりはどうかなどを見きわめるために、とりあえず着た服なのに、クロエは見違えるようになった。 ブランソー夫人はその可憐な姿を見て、手を打って喜んだ。
「いいわ! いいわよ、このドレス! ウェストがちょっとぶかぶかしているけど、直せるわよね」
売れ残りの服が金になると知って、マダムはほくほくしながら素早く胸算用し、ディアヌに払わせるつもりだった代金の三分の二ほどを切り出した。
それから楽しい生地選びが始まった。
娘を愛するクロエの父のおかげで、ブランソー夫人の懐は暖かい。 気前よく次々と高級生地を選び出し、レースやひだ飾り、造花なども注文した。
そしてマダムとお針子たちが大挙して、三日後に仮縫いのため、ブランソー屋敷に来ることも取り決められた。
伯母と姪は、宝飾店にも足を運んだ。 といってもその場で買うのではなく、服の仕立てが済んだら、似合う宝石を持ってくるよう頼むためだった。 そのほうが安全だし、値切るのも店よりうまくいく。
豪華な首飾りや腕輪をいくつも眺めた後、イザカイヤの店を後にしたとき、クロエは疲れていたが、心は美しいものを見たという満足感と、これからの華やかな日々への期待で一杯にふくらんでいた。
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