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表紙

誓いは牢獄で  48


 雲を踏むような足取りで邸に入り、白雁の間のカウチに腰を降ろすと、 二人は目を閉じて、固く抱き合った。
 お互いの温もりが服を通して伝わってくる。 それだけでよかった。
 生きているって、何て素晴らしいことなんだろう、と、コーネリアは心の底から思った。 死の淵を経験した者でなければわからない気持ちだった。 今の自分や、バージルのように……

 体をいくらか揺らして、バージルが低く尋ねた。
「わたしが誰か、もうわかっていますね?」
 彼の胸に顔をつけたまま、コーネリアは小さく頷いた。
「初めて会ったとき、あなたはジョン・ジェームズ・バーンズでした……」
「その通りです」
 バージルのかすかな息が聞こえた。
「話せば長くなりますが、ある筋に頼まれて情報集めをしていたのです。 ジョージ・ハノーヴァー様が、英国の新国王にふさわしいかどうか」
 それで偽名を使っていたのか。 ようやく納得が行った。
「しばらくドイツへ行き、戻ってきてその名で裏町に宿を取っていたところを、政敵に襲われました」
 コーネリアを抱く腕に力が入った。
「うまい罠でした。 わたしは本名を名乗れなかった。 スパイをしていたことが明るみに出れば、たとえ釈放されても今度は新国王に暗殺される」
 コーネリアの背中に震えが走った。 人のうらやむ地位を持つことは、常に危険と隣り合わせなのだ。
 バージルの声が、ふっと柔らかさを増した。
「牢獄の中は、まさにこの世の地獄でした。 処刑が一週間延び、不安になった敵は、確実に私を殺すため刺客まで差し向けてきました。
 そこへ、降って湧いたような結婚話です。 受ければ眠れる。 もうそれだけでよかった。
 でも、それだけじゃなかった。 あなたは不潔な死刑囚だったわたしを気遣い、密かに金を渡してくれた。 わたしの命を買える金を!」
 胸が詰まって、バージルは言葉を切った。
「……天使。 そう、あなたは天使そのものでした。
 親友のトーマスと連絡が取れて、救い出してもらった後、彼が言い出したんです。 口実を設けて、その天使を見に行こうと。
 初めはためらったけれど、やはり来てみたかった。 あなたを遠くからでも、もう一度見たくて」









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