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表紙

誓いは牢獄で  43


 ホリスはたじたじと後ろへ下がった。 今や形勢は完全に逆転していた。
 トーマスは、小気味よさそうにホリスへ目をくれた後、丁重にコーネリアへ腕を差し出した。
「朝からとんだことで、お疲れでしょう。 こんな罪人の始末はダーリンプルに任せて、中へ入って休まれたらいかが?」
 混乱したコーネリアは、ぼうっとトーマスの顔を見て、それからバージルに視線を移した。 バージルはこれまでコーネリアに一度も目を向けず、今もじっと死体を見つめていた。
「あの……」
「大丈夫ですよ。 僕らがついています。 お気持ちが静まるまで、何もおっしゃらずに」
 トーマスが急いでコーネリアを連れていこうとするのに気付いて、ホリスが高い声をかけた。
「待て! まだ肝心なことがわかってないぞ! この死体がバーンズではないとしたら、本物のバーンズは、今どこで、どうしているんだ! ちゃんと処刑されて、あの世送りになったのか?」

 トーマスが、ダーリンプルに頷いてみせた。 ダーリンプルは肩をすくめ、朗々とした声で告げた。
「あいつは釈放になって、牢屋を出ていったでやす。 まったく運の強い奴で」


 やはり釈放?
 鈍いショックがコーネリアの意識を揺すぶった。
「それじゃ、ジョージ新王が彼を恩赦にしたというのは、本当なの?」
 ようやくコーネリアに現実の感覚が戻ってきた。 頭だけでなく全身がしびれてしまって、反応できなくなっていたのが、やっと解けた。
 ダーリンプルは、ちょっと面白そうにコーネリアを眺めた。
「いやー、恩赦になったのは、せいぜい女子供とケチな泥棒までで。 バーンズは、金で再審権を買ったんでやすよ。 あれは、奥方様が恵んでやった金じゃないんでやすか?」

 コーネリアの視線が、激しく揺れた。 そういえば、人生最後の楽しみを買うためにと、金貨を三枚渡したっけ。 それを皺だらけのズボンに素早く隠した汚い指……
「そんな……」
 コーネリアの目が裏返った。 膝が、がくっと折れた。
 今度こそ、意識が彼方に飛び去って、コーネリアは操りの手を離れた人形のように、地面に崩れ落ちた。










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