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誓いは牢獄で
42
ダーリンプルは、わずかな間に一段と太っていた。 はちきれそうな半ズボンを隠すためか、だぶだぶの長いチュニックをだらりと着て、インチキくさい商人のように見えた。
茫然と口をあけたコーネリアと目が合うと、ダーリンプルは三日月型に唇を広げて、陽気に挨拶した。
「これは奥方様、お久しぶりでやす」
ホリスは口髭をひねり、乾いた咳払いをした。
「いったい誰です、この連中は?」
珍しく恐い顔をしたトーマスが、前に進み出た。
「奥方の知り合いです。 心からの味方でもあります」
「味方?」
ホリスはせせら笑った。
「どう味方しようというのです? 庭の井戸から、刺し殺された死体が上がったのですよ。 しかもそれが、この麗しい奥方のご主人だという疑いがあるのだから」
「これが?」
バージルがいつも通りに静かな口調で問い返した。 そして、ダーリンプルに顔を向けた。
「ここにいる皆さんに教えてやってくれ。 この死体は、誰なんだ?」
二歩歩み寄って、ダーリンプルはステッキを上げ、死者の顔を覆っている濡れた髪を左右に分けた。
それから、口をねじ曲げてクックッと笑い出した。
「こいつはいい。 ネッド・キルビーでやすよ」
ホリスが、慌しく手を髭から離した。
「なに? 嘘つけ! この男はジョン・バーンズといって……」
「まるで違いやすよ」
うんざりした口調で、ダーリンプルが遮った。
「これは、脱獄囚のネッド・キルビーでやす。 八十ポンドの賞金付きのお尋ね者でな。 仕留めたのは誰でやすか? さっそく賞金の手続をせねば」
「なんだと!」
ホリスのわめき声が鼓膜をつんざくほどだったので、ダーリンプルは顔をしかめて耳を覆った。
ホリスは焦りに焦っていた。 長い顔を突き出して、ダーリンブルを怒鳴りつけた。
「平民の分際で口を出すな! そもそも、お前は誰だ! 何の権限があって、こいつが別人だなどと言えるんだ!」
「言えますとも。 わしゃニューゲイト監獄に十六年勤めている看守でやすからね。 囚人の一人一人、鼻の形からイボの数まで言えるでやんすよ」
ダーリンプルも、むきになって反論した。
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