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表紙

誓いは牢獄で  40


 男の召使の二人が綱を支え、後の二人が遺骸を井戸の縁から下ろし、地面に横たえた。
 すると、胸に突き立っている短剣の柄が、不気味に光った。
 窓からおっかなびっくり覗いていた料理人が、かすれた悲鳴を上げた。
「ひやあ、ぶっ刺されてるよ〜!」


 ホリスは、悠々と遺骸の傍へ行き、体を倒して短剣をしげしげと観察した。
「安物のナイフだ。 たとえばロンドンなら、五ペンスも出せば、どこでも手に入る」
 ゆっくりと体を起こすと、ホリスは瞬きせずにコーネリアを見つめた。
「これは、いったいどういうことですかな?」

 コーネリアは無意識に胸を押さえた。 顔が青ざめているのは、鏡を見なくてもわかった。 だがそれは、死体を見た衝撃からだと言い訳できる。 コーネリアは力を振り絞って、ホリスの勝ち誇った顔を見返した。
「わかりませんわ。 だいたい、この井戸は五年も前に水質が悪くなって使うのを止め、放っておかれているものです。 わざわざ中を覗いてみたりして、何のおつもり?」
「ほんの好奇心ですよ」
 軽く受け流して、ホリスはにやにやした。 憎たらしい顔を引っぱたいてやりたいと思いながら、コーネリアは顎を上げて従兄弟を睨んだ。
「知らない浮浪者が、喧嘩か何かで殺されたのまで、私の責任ですか?」
 ホリスの眉間に、小さい縦皺が寄った。
「当然でしょう。 ここはあなたのお邸なのだから」
「私は二日間、長官のお邸へ行っていました。 その間に起きたことでしょう」
「その前かもしれませんぞ」
 ホリスは引き下がらなかった。
「そして、この死人がジョン・バーンズでないという証拠は、どこにもありません」
「なんですって!」
 昨日から我慢していた怒りと苛立ちが、遂に爆発した。 コーネリアは拳を握りしめて、激しく叫んだ。
「何という言いがかりでしょう! これが、このみすぼらしい男が私の夫だというの? 妙な侮辱は許しませんよ!」
「すぐわかることです」
 ホリスは平然と言ってのけた。
「ジョン・バーンズ氏は、ここへ来るまであちこちの村で姿を見られている。 彼と話した村人を、何人か連れてきましょう。 そして、この男を見て、確認してもらえばいい」










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