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表紙

誓いは牢獄で  39


 ますます不愉快になったコーネリアは、ホリスが隣りの灰色鹿の間に入ろうとするかどうか見張った。
 幸い、ホリスは何事か考えあぐねた表情で、表庭のほうへ去っていった。 騒ぎの起きた現場である灰色鹿の間へ行かなかったことで少しホッとして、コーネリアは柱の後ろから出た。


 間もなく雲が出てきて風が強くなり、気温が急激に下がった。
 小さい食堂間で軽い朝食を取った後、コーネリアはメアリに言ってショールを取ってきてもらい、肩にかけて食堂を出た。
 すると、玄関のほうからアンドリュースが、珍しく眉を吊り上げて飛び込んできた。 相当混乱しているようだ。 コーネリアを見つけると、彼はほとんど駆け足で近寄って、報告した。
「裏の井戸に、人が落ちているようです!」


 コーネリアは棒立ちになった。 全身の血が一挙に引いて、意識が遠くなりかけた。
「なん……なんですって……?」
「ホリス様が見つけられました。 今、縄梯子を降ろしてハリーが降りていってます。 手鈎をかけて引き上げることになりました」

 最悪の事態だ。 あまりの急展開に、コーネリアは考える力を失いかけた。
――どうしてわかったの? なぜ! 井戸の蓋はきちんと閉まっていた。 それに、あの深さでは、ちょっと覗いたぐらいでは見えないはずなのに!――
「奥方様もおいで下さい。 ほんとに、とんでもないことだ。 あんな古井戸に人が落ちるなんて、どういうことなんだ」
 アンドリュースがぶつぶつ言いつつ歩く後を、コーネリアは放心状態でついていった。



 裏庭には四、五人の使用人が出て、井戸を見つめていた。 邸の窓からも何人か覗いている。 井戸の真ん前に、ホリスが立って腕組みしていた。
 井戸の蓋は外され、横に立てかけられていた。 コーネリアがアンドリュースと共に玄関から出て、井戸に近付いていったとき、ハリーが大鼠のようにするすると縄梯子を上がって出てきて、ロープの端を男の使用人三人に渡した。
 四人は、息を合わせてロープを引き始めた。
 水に浸かった遺骸は相当重いらしく、みんな顔を真っ赤にしていた。
 それでも、たぐられて後ろに伸びるロープは次第に長くなってとぐろを巻き、ついに大きな黒い塊が、井戸から姿を現した。










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